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text:chomonju:s_chomonju466
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text:chomonju:s_chomonju466 [2020/08/08 12:13] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +[[index.html|古今著聞集]] 哀傷第二十一
 +====== 466 後京極殿は詩歌の道に長ぜさせ給ひて寛弘寛治の昔の跡を尋ねて・・・ ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +後京極殿((藤原良経))は、詩歌の道に長ぜさせ給ひて、寛弘・寛治の昔の跡を尋ねて、建永元年三月に、京極殿にて曲水の宴を行なはんと思し立ちけり。巴字(はじ)の潺湲(せんくわん)を流し、住吉の松をき引植ゑなどして、さまざまに御いとなみありけるに、熊野山炎上の聞こえありければ、三日に延べて、中の巳を用ゐられたる例もありとて、十二日と定められたりけるほどに、七日の夜、にはかに失せさせ給ひにける。人々の秀句、むなしく家に残りてこそ侍らめ。御歳三十八なり。惜しく悲しきことなり。
 +
 +定家卿((藤原定家))このことを歎きて、家隆卿((藤原家隆))のもとへ申しつかはしける、
 +
 +  昨日までかげと頼みし桜花一夜の夢の春の山風
 +
 +返し、
 +
 +  悲しさの昨日の夢に比ぶればうつろふ花も今日の山風
 +
 +その御子の前内大臣((藤原基家))、大納言の時、卅首歌(三十首中撰哥合)を人々に詠ませて、
 +選定してつかはれける時(五十番((「番」は底本「首」。諸本により訂正。))、元仁二年三月尽披講之)、慈鎮和尚((慈円))、往時を思ひ出で給ひて、「宴水懐旧」に詠み給ひける、
 +
 +  思ひ出でてねをのみぞ泣く行く水に書きし巴(は)の字の春の夜の夢
 +
 +定家卿、同じ心を、
 +
 +  堰(せ)く水もかへらぬ波の花のかげうきをかたみの春ぞ悲しき
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +  後京極殿は詩哥の道に長させ給て寛弘寛治の
 +  昔の跡を尋て建永元年三月に京極殿にて曲水
 +  宴をおこなはんとおほしたちけり巴字の潺湲を
 +  なかし住吉の松を引うへなとしてさまさまに御いとなみ
 +  ありけるに熊野山炎上のきこえありけれは三日に延て
 +  中の巳を用られたる例もありとて十二日とさため
 +  られたりける程に七日のよ俄に失させ給にける
 +  人々の秀句むなしく家にのこりてこそ侍らめ御
 +  歳卅八也おしくかなしき事也定家卿此事を歎て/s364l
 +
 +http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/364
 +
 +  家隆卿のもとへ申つかはしける
 +   昨日まてかけとたのみし桜花一夜の夢の春の山風
 +    返し
 +   かなしさの昨日の夢にくらふれはうつろふ花もけふの山かせ
 +  (卅首中撰哥合)その御子の前内大臣大納言の時卅首哥を人々によませて
 +  (五十首元仁二年三月尽披講之)選定してつかはれける時慈鎮和尚往時を思出給て
 +  宴水懐旧によみ給ける
 +   思出てねをのみそなく行水にかきし巴字の春のよの夢
 +  定家卿おなし心を
 +   せく水もかへらぬ浪の花のかけうきをかたみの春そかなしき/s365r
 +
 +http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/365
  
text/chomonju/s_chomonju466.txt · 最終更新: 2020/08/08 12:13 by Satoshi Nakagawa