text:chomonju:s_chomonju377
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text:chomonju:s_chomonju377 [2020/05/09 19:16] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:chomonju:s_chomonju377 [2020/05/09 21:11] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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その夜より、こはき飯を多くして食はせけり。女、みづからその飯を握りて食はするに、少しも食ひ割られざりけり。始めの七日は、すべてえ食ひ割らざりけるが、次の七日よりは、やうやう食ひ割られけり。第三七日よりぞ、うるはしうは食ひける。かく三七日が間、よくいたはりやしなひて、「今はとく上り給へ。このうへはさりともとこそ覚ゆれ」と言ひて上せけり。いとめづらかなることなりかし。 | その夜より、こはき飯を多くして食はせけり。女、みづからその飯を握りて食はするに、少しも食ひ割られざりけり。始めの七日は、すべてえ食ひ割らざりけるが、次の七日よりは、やうやう食ひ割られけり。第三七日よりぞ、うるはしうは食ひける。かく三七日が間、よくいたはりやしなひて、「今はとく上り給へ。このうへはさりともとこそ覚ゆれ」と言ひて上せけり。いとめづらかなることなりかし。 | ||
- | 件(くだん)の高嶋の大井子(おほゐこ)は、田など多く持ちたりけり。田に水まかするころ、村人、水を論じて、とかく争ひて、大井子が田には当て付けざりける時、大井子、夜に隠れて、面(おもて)の広さ六・七尺ばかりなる石の、四方なるを持て来たりて、かの水口に置きて、人の田へ行く水をせきて、わが田へ行くやうに横ざまに置きてければ、水思ふさまにせかれて、田うるほひにけり。 | + | 件(くだん)の高島の大井子(おほゐこ)は、田など多く持ちたりけり。田に水まかするころ、村人、水を論じて、とかく争ひて、大井子が田には当て付けざりける時、大井子、夜に隠れて、面(おもて)の広さ六・七尺ばかりなる石の、四方なるを持て来たりて、かの水口に置きて、人の田へ行く水をせきて、わが田へ行くやうに横ざまに置きてければ、水思ふさまにせかれて、田うるほひにけり。 |
その朝、村人ども見て、驚きあさむことかぎりなし。「石を引きのけむとすれば、百人ばかりしてもかなふべからず。させば田みな踏み損ぜられぬべし。いかがせむずる」とて、村人、大井子に降(かう)を乞ひて、「今より後は思し召さむほど、水をばまかせ侍るべし。この石のけ給へ」と言ひければ、「さぞ覚ゆる」とて、また夜に隠れて引きのけてけり。その後は長く水論する((「する」は底本「もる」。諸本により訂正。))ことなくて、田焼くることなかりけり。 | その朝、村人ども見て、驚きあさむことかぎりなし。「石を引きのけむとすれば、百人ばかりしてもかなふべからず。させば田みな踏み損ぜられぬべし。いかがせむずる」とて、村人、大井子に降(かう)を乞ひて、「今より後は思し召さむほど、水をばまかせ侍るべし。この石のけ給へ」と言ひければ、「さぞ覚ゆる」とて、また夜に隠れて引きのけてけり。その後は長く水論する((「する」は底本「もる」。諸本により訂正。))ことなくて、田焼くることなかりけり。 |
text/chomonju/s_chomonju377.1589019373.txt.gz · 最終更新: 2020/05/09 19:16 by Satoshi Nakagawa