古今著聞集 政道忠臣第三
同じ院1)、「律令式格(りつりやうしききやく)にたがはず」と宣命に書かせさせ給はせけるを、資仲卿2)、「これより後をこそ申させ給はめ、前にすでにたがひたることどもをば、いかでかかくは申させ給ふぞ」と制し参らせけるに、ほどなく失せさせおはしましにければ、「その宣命のゆゑにや」とぞ人申しける。
為輔中納言3)、口伝に書かれて侍るなるは、「人は屏風のやうなるべきなり。屏風はうるはしう引き延べつれば倒(たふ)るるなり。ひだをとりて立つれば倒(たふ)るることなし。人のあまりにうるはしくなりぬれば、えたもたず。屏風のやうにひだあるやうなれど、まことはうるはしきがたもつなり」と侍るとかや。
同院律令式格にたかはすと宣命にかかせさせた まはせけるを資仲卿これより後をこそ申させたまは め前にすてにたかひたる事ともをはいかてかかくは申 させ給そと制しまいらせけるに程なくうせさせおはし ましにけれはその宣命のゆへにやとそ人申ける為輔 中納言口伝にかかれて侍なるは人は屏風のやうなる へき也屏風はうるはしうひきのへつれはたふるるなり ひたをとりてたつれはたふるる事なし人のあまりに うるはしくなりぬれはえたもたす屏風のやうに ひたある様なれと実はうるはしきかたもつなりと侍とかや/s76r