text:yomeiuji:uji192
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text:yomeiuji:uji192 [2014/04/22 02:57] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji192 [2019/12/04 15:56] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第192話(巻15・第7話)伊良縁世恒、毘沙門の御下文を給はる事 ====== | ====== 第192話(巻15・第7話)伊良縁世恒、毘沙門の御下文を給はる事 ====== | ||
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**伊良縁世恒、毘沙門の御下文を給はる事** | **伊良縁世恒、毘沙門の御下文を給はる事** | ||
- | いまはむかし、越前国に伊良縁の世恒といふ物有けり。とりわきてつかふまつる毘沙門に、物もくはで物のほしかりければ、「助給へ」と申ける程に、「かどにいとほしげなる女の『家あるじに物いはん』との給ふ」といひければ、「誰にかあらん」とて出あひたれば、かはらけに物をひともり、「これくひ給へ。物ほしとありつるに」とてとらせたれば、悦てとりて入て、ただすこし食たれば、やがて飽みちたる心ちして、二三日は物もほしからねば、これををきて、物のほしきおりごとにすこしづつくらひてありける程に、月比過て此物もうせにけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | 「いかがせんずる」とて、又念じたてまつりければ、又ありしやうに人のつげければ、始にならひて、まどひ出てみれば、ありし女房の給やう、「これくだしぶみたてまつらん。これより北の谷、峰百町を越て、中に高き峰あり。それに立て『なりた』とよばば、ものいできなん。それにこのふみをみせて、たてまつらん物をうけよ」といひていぬ。このくだし文をみれば「米二斗わたすべし」とあり。 | + | 今は昔、越前国に伊良縁(いらえ)の世恒(よつね)(([[: |
- | やがてそのまま行て見ければ、実に高き峰あり。それにて、「なりた」とよべば、おそろしげなるこゑにていらへて、出きたる物あり。これは額に角おひて目一ある物、あかきたうさぎしたる物出来て、ひざまづきてゐたり。「これ御下文なり。此米えさせよ」といへば、「さる事候」とて下文をみて、「是は二斗と候へども一斗をたてまつれとなん候つる也」とて、一斗をぞとらせたりける。 | + | 「いかがせんずる」とて、また念じ奉りければ、また、ありしやうに人の告げければ、始めにならひて、まどひ出でて見れば、ありし女房、のたまふやう、「これ下し文(ぶみ)奉らん。これより北の谷、峰百町を越えて、中に高き峰あり。それに立ちて、『なりた』と呼ばば、もの出で来なん。それにこの文(ふみ)を見せて、奉らんものを受けよ」と言ひて去ぬ。この下し文を見れば、「米二斗渡すべし」とあり。 |
- | そのままに請取て、帰てその入たる袋の米をつかふに、一斗つきせざりけり。千万石とれども、只おなじやうにて、一斗はうせざりけり。 | + | やがて、そのまま行きて見ければ、まことに高き峰あり。それにて、「なりた」と呼べば、恐しげなる声にていらへて、出で来たるものあり。見れば、額に角生ひて目一つあるもの、赤き褌(たふさぎ)したるもの出で来て、ひざまづきてゐたり。「これ御下し文なり。この米得させよ」と言へば、「さること候ふ」とて、下文を見て、「これは二斗と候へども、一斗を奉れとなん候ひつるなり」とて、一斗をぞ取らせたりける。 |
- | これを国守ききて、此よつねをめして、「其袋我にえさせよ」といひければ、国のうちにある身なれば、えいなびずして、「米百石のぶんたてまつる」といひてとらせたり。一斗とれば又いできいできしければ、「いみじき物まうけたり」と思ひてもたりける程に百石とりはてたれば、米うせにけり。 | + | そのままに請け取りて帰りて、その入りたる袋の米を使ふに、一斗尽きせざりけり。千万石取れども、ただ同じやうにて、一斗は失せざりけり。 |
+ | |||
+ | これを国守聞きて、この世恒を召して、「その袋、われに得させよ」と言ひければ、国の内にある身なれば、えいなびずして、「米百石の分(ぶん)、奉る」と言ひて取らせたり。一斗取れば、また出で来出で来しければ、「いみじき物まうけたり」と思ひて、持(も)たりけるほどに、百石取り果てたれば、米失せにけり。袋ばかりになりぬれば、本意(ほい)なくて、返し取らせたり。世恒がもとにては、また米一斗出で来にけり。 | ||
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+ | かくて、えもいはぬ長者にてぞありける。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | いまはむかし越前国に伊良縁の世恒といふ物有けりとりわきて/下103ウy460 | ||
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+ | つかふまつる毘沙門に物もくはて物のほしかりけれは助給へと申 | ||
+ | ける程にかとにいとおかしけなる女の家あるしに物いはんとの給ふ | ||
+ | | ||
+ | これくひ給へ物ほしとありつるにとてとらせたれは悦てとりて入 | ||
+ | てたたすこし食たれはやかて飽みちたる心ちして二三日は物もほし | ||
+ | からねはこれををきて物のほしきおりことにすこしつつくひてあり | ||
+ | ける程に月比過て此物もうせにけりいかかせんするとて又念し | ||
+ | たてまつりけれは又ありしやうに人のつけけれは始にならひてまとひ出て | ||
+ | みれはありし女房の給やうこれくたしふみたてまつらんこれより北 | ||
+ | の谷峰百町を越て中に高き峰ありそれに立てなりたと | ||
+ | よははものいてきなんそれにこのふみをみせてたてまつらん物をうけよと | ||
+ | いひていぬこのくたし文をみれは米二斗わたすへしとありやかて | ||
+ | そのまま行て見けれは実に高き峰ありそれにてなりたとよへはおそ/下104オy461 | ||
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+ | ろしけなるこゑにていらへて出きたる物ありみれは額に角おひて | ||
+ | 目一ある物あかきたうさきしたる物出来てひさまつきてゐたりこれ | ||
+ | 御下文なり此米えさせよといへはさる事候とて下文をみて是は | ||
+ | 二斗と候へとも一斗をたてまつれとなん候つる也とて一斗をそとらせ | ||
+ | たりけるそのままに請取て帰てその入たる袋の米をつかふに | ||
+ | 一斗つきせさりけり千万石とれとも只おなしやうにて一斗はうせさり | ||
+ | けりこれを国守ききて此よつねをめして其袋我にえさせよと | ||
+ | いひけれは国のうちにある身なれはえいなひすして米百石のふんたて | ||
+ | まつるといひてとらせたり一斗とれは又いてきいてきしけれはいみしき物 | ||
+ | | ||
+ | 袋斗に成ぬれはほいなくて返しとらせたり世恒かもとにては又米一斗 | ||
+ | 出きにけりかくてえもいはぬ長者にてそありける/下104ウy462 | ||
- | 袋斗に成ぬればほいなくて、返しとらせたり。世恒がもとにては、又米一斗出きにけり。かくてえもいはぬ長者にてぞありける。 |
text/yomeiuji/uji192.1398103043.txt.gz · 最終更新: 2014/04/22 02:57 by Satoshi Nakagawa