text:yomeiuji:uji157
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| text:yomeiuji:uji157 [2019/10/25 23:23] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji157 [2025/06/06 00:59] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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| 宇治拾遺物語 | 宇治拾遺物語 | ||
| - | ====== 第157話(巻12・第21話)或上達部、中将之時、召人に逢ふ事 ====== | + | ====== 第157話(巻12・第21話)ある上達部、中将の時、召人に逢ふ事 ====== |
| **或上達部中将之時逢召人事** | **或上達部中将之時逢召人事** | ||
| - | **或上達部、中将之時、召人に逢ふ事** | + | **ある上達部、中将の時、召人に逢ふ事** |
| ===== 校訂本文 ===== | ===== 校訂本文 ===== | ||
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| 今は昔、上達部のまだ中将と申しける、内へ参り給ふ道に、法師を捕(とら)へて率(ゐ)て行きけるを、「こは、なに法師ぞ」と問はせければ、「年ごろ仕はれて候ふ主を殺して候ふ者なり」と言ひければ、「まことに罪重きわざしたる者にこそ。心憂きわざしたる者かな」と、何となくうち言ひて過ぎ給ひけるに、この法師、赤き眼(まなこ)なる目の、ゆゆしく悪しげなるして、にらみ上げたりければ、「よしなきことをも言ひてけるかな」と、けうとく思して、過ぎ給ひけるに、また、男をからめて行きけるを、「こは、何事したる者ぞ」と、懲りずまに問ひければ、「人の家に追ひ入られて候つる男は、逃げてまかりぬれば、これを捕へてまかるなり」と言ひければ、「別のこともなきものにこそ」とて、その捕へたる人を見知りたれば、乞ひ許してやり給ふ。 | 今は昔、上達部のまだ中将と申しける、内へ参り給ふ道に、法師を捕(とら)へて率(ゐ)て行きけるを、「こは、なに法師ぞ」と問はせければ、「年ごろ仕はれて候ふ主を殺して候ふ者なり」と言ひければ、「まことに罪重きわざしたる者にこそ。心憂きわざしたる者かな」と、何となくうち言ひて過ぎ給ひけるに、この法師、赤き眼(まなこ)なる目の、ゆゆしく悪しげなるして、にらみ上げたりければ、「よしなきことをも言ひてけるかな」と、けうとく思して、過ぎ給ひけるに、また、男をからめて行きけるを、「こは、何事したる者ぞ」と、懲りずまに問ひければ、「人の家に追ひ入られて候つる男は、逃げてまかりぬれば、これを捕へてまかるなり」と言ひければ、「別のこともなきものにこそ」とて、その捕へたる人を見知りたれば、乞ひ許してやり給ふ。 | ||
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| おほかた、この心ざまして、人の悲しき目を見るに従ひて助け給ひける人にて、初めの法師も、「ことよろしくは、乞ひ許さん」とて問ひ給ひけるに、罪のことのほかに重ければ、さのたまひけるを、法師はやすからず思ける。さて、ほどなく大赦のありければ、法師もゆりにけり。 | おほかた、この心ざまして、人の悲しき目を見るに従ひて助け給ひける人にて、初めの法師も、「ことよろしくは、乞ひ許さん」とて問ひ給ひけるに、罪のことのほかに重ければ、さのたまひけるを、法師はやすからず思ける。さて、ほどなく大赦のありければ、法師もゆりにけり。 | ||
| - | さて、月明かりける夜、みな人はまかで、あるは寝入りなどしけるを、この中将、月にめでて、たたずみ給けるほどに、「者の築地を越えて降りける」と見給ふほどに、後ろよりかきすくひて、飛ぶやうにして出でぬ。あきれまどひて、いかにも思し分かぬほどに、恐しげなる者、来集ひて、遥かなる山の険しく恐しき所へ率て行きて、柴((底本「此木」に「シハ」と傍注。))の編みたるやうなる物を高く作りたるにさし置きて、「さかしらする人をば、かくぞする。やすきことは、ひとへに罪重く言ひなして、悲しき目見せしかば、その答(たう)に、あぶり殺さんずるぞ」とて、火を山のごとく焼きければ、夢などを見る心地して、若くきびはなるほどにてはあり、もの覚え給はず、熱さはただ熱さになりて、ただ片時(かたとき)に死ぬべく思え給ひけるに、山の上より、ゆゆしき鏑矢を射おこせければ、ある者ども、「こはいかに」と騒ぎけるほどに、雨の降るやうに射ければ、これら、しばしはこの方よりも射けれど、あなたには人の数多く、え射あふべくもなかりけるにや、火の行方(ゆくへ)も知らず、射散らされて逃て去(い)にけり。 | + | さて、月明かりける夜、みな人はまかで、あるは寝入りなどしけるを、この中将、月にめでて、たたずみ給けるほどに、「ものの築地を越えて降りける」と見給ふほどに、後ろよりかきすくひて、飛ぶやうにして出でぬ。あきれまどひて、いかにも思し分かぬほどに、恐しげなる者、来集ひて、遥かなる山の険しく恐しき所へ率て行きて、柴((底本「此木」に「シハ」と傍注。))の編みたるやうなる物を高く作りたるにさし置きて、「さかしらする人をば、かくぞする。やすきことは、ひとへに罪重く言ひなして、悲しき目見せしかば、その答(たう)に、あぶり殺さんずるぞ」とて、火を山のごとく焼きければ、夢などを見る心地して、若くきびはなるほどにてはあり、もの覚え給はず、熱さはただ熱さになりて、ただ片時(かたとき)に死ぬべく思え給ひけるに、山の上より、ゆゆしき鏑矢を射おこせければ、ある者ども、「こはいかに」と騒ぎけるほどに、雨の降るやうに射ければ、これら、しばしはこの方よりも射けれど、あなたには人の数多く、え射あふべくもなかりけるにや、火の行方(ゆくへ)も知らず、射散らされて逃て去(い)にけり。 |
| その折、男一人出で来て、「いかに恐しく思し召しつらん。おのれは、その月のその日、からめられてまかりしを、御徳に許されて、よに嬉しく、『この御恩報ひ参らせばや』と思ひ候ひつるに、法師のことは悪しく仰せられたりとて、日ごろうかがひ参らせ候ひつるを見て候ふほどに、『告げ参らせばや』と思ひながら、『わが身、かくて候へば』と思ひ候ひつるほどに、あからさまに、きと立ち離れ参らせ候ひつるほどに、かく候ひつれば、築地を越えて出で候ひつるに合ひ参らせ候ひつれども、『そこにて取り参らせ候はば、殿も御疵(きず)などもや候はんずらん』と思ひて、ここにてかく射はらひて、取り参らせ候ひつるなり」とて、それより馬にかき乗せ申して、たしかにもとの所へ送り申してんげり。ほのぼのと明くるほどにぞ帰り給ひける。 | その折、男一人出で来て、「いかに恐しく思し召しつらん。おのれは、その月のその日、からめられてまかりしを、御徳に許されて、よに嬉しく、『この御恩報ひ参らせばや』と思ひ候ひつるに、法師のことは悪しく仰せられたりとて、日ごろうかがひ参らせ候ひつるを見て候ふほどに、『告げ参らせばや』と思ひながら、『わが身、かくて候へば』と思ひ候ひつるほどに、あからさまに、きと立ち離れ参らせ候ひつるほどに、かく候ひつれば、築地を越えて出で候ひつるに合ひ参らせ候ひつれども、『そこにて取り参らせ候はば、殿も御疵(きず)などもや候はんずらん』と思ひて、ここにてかく射はらひて、取り参らせ候ひつるなり」とて、それより馬にかき乗せ申して、たしかにもとの所へ送り申してんげり。ほのぼのと明くるほどにぞ帰り給ひける。 | ||
| 年おとなになり給ひて、「かかることにこそあひたりしか」と、人に語り給ひけるなり。四条大納言((藤原公任))のことと申すは、まことやらん。 | 年おとなになり給ひて、「かかることにこそあひたりしか」と、人に語り給ひけるなり。四条大納言((藤原公任))のことと申すは、まことやらん。 | ||
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text/yomeiuji/uji157.1572013380.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa
