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text:takamura:s_takamura1-04

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text:takamura:s_takamura1-04 [2022/08/29 01:20] – 作成 Satoshi Nakagawatext:takamura:s_takamura1-04 [2022/08/29 01:21] (現在) Satoshi Nakagawa
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-[[index.html|篁物語]] 
-====== 1-4 さてこの女願ありて如月の初午に稲荷に参りけり・・・ ====== 
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-===== 校訂本文 ===== 
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-さてこの女、願(ぐわん)ありて、如月の初午(はつむま)に、稲荷((伏見稲荷大社))に参りけり。供に人多くもあらで、大人二人、童(わらは)二人ありける。大人は色々の袿(うちぎ)、二人は同じをなん着たりける。君は綾(あや)の掻練(かいねり)の単襲(ひとへがさね)、唐(から)の羅(うすもの)の桜色の細長(ほそなが)着て、花染(はなぞめ)の綾の細長おりてぞ着たりける。髪はうるはしくて、たけに一尺ばかり余りて、頭(かしら)つきいと清げなり。顔もあやしう世人(よひと)には似ずめでたうなんありける。男(を)の童三・四人、さてはこの兄(せうと)ぞありける。まほにはあらねど、先立ち遅れて来ける詣でざまに、困じにけれは、兄いとほしがりて、「篁にかかり給へ」とて寄りければ、「いで、いないな」と言ひて、道中にいにけり。 
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-さる程に、兵衛佐がりの人、かたち清げにて、年二十ばかりなりけるが詣で合ひて、かへさに、女のみちにゐたる、「あな苦し。かくてやは出で立ち給へる」。もの妬みして男申すに、「かもは車作りて、乗せ奉りて、このわたりなるきさきの峰にすゑ奉らむ。女の事にはたいわう、さかとには誰をか」と((底本「と」と次の「いふほど」の間に数文字空白。このあたり文意がよく分からない。))言ふほどに、暮れにければ、破子(わりご)探して食はせんとするに、この佐(すけ)をやり過ぐす。この男、休むやうにて下りて、 
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-  人知れず心ただすの神ならば思ふ心を空に知らなん 
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-返し、 
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-  社(やしろ)にもまだ巫覡(きね)すゑず石神(いしがみ)は知ることかたし人の心を 
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-またもおこせけれど、この兄(せうと)、急がして車に乗せて率(ゐ)ていぬ。この佐、人をつけて、「いづくにか率ていぬる」と見せければ、その家と見てけり。 
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-朝(あした)に文(ふみ)あり。神の教へ給へしかばなん、さして奉る。かの石神の御もとにて、今日あらば」、文を取り入れて見れば、この兄(せうと)出で走りて、「父ぬし聞き給ふに。いともの騒がしく。この童(わらは)はいづくから来たるぞ。いづれの好き者の使ぞ」と言ひければ、「御文は奉らせつれど、昨日いませしぬしの、『いづれの使ぞ』との給ふを、内からは翁びたる声にて、『何事ぞ』などのたまひつれば、わづらはしさになん詣で来ぬる」と言ひければ、「たうめの童」と言ひて、またの朝(あした)に、「昨日の御返し、たびたびいとおぼつかなし。この童の、あとはかなくて詣で来にしかば、 
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-  あとはかもなくやなりにし浜千鳥おぼつかなみに騒ぐ心か 
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-===== 翻刻 ===== 
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-  つねにつくり返けるさてこの女願 
-  ありてきさらきのはつむまに 
-  いなりにまいりけりともに人お 
-  ほくもあらておとな二人わらは 
-  二人ありけるおとなは色々の 
-  うちきふたりはおなしをなん 
-  きたりける君はあやのかひねりの/s8l 
- 
-https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/8 
- 
-  ひとへかさねからのうすもののさ 
-  くら色のほそなかきてはなそめの 
-  あやのほそなかおりてそきたりける 
-  かみはうるはしくてたけに一尺は 
-  かりあまりてかしらつきいときよけな 
-  りかほもあやしうよ人にはにすめ 
-  てたうなんありけるをのわらは 
-  三四人さてはこのせうとそあり 
-  けるまほにはあらねとさきたち 
-  をくれてきけるまうてさまにこう/s9r 
- 
-  しにけれはせうといとおしかりて 
-  たかむらにかかり給へとてよりけ 
-  れはいていないなといひて道中に 
-  ゐにけりさる程に兵衛佐かりの 
-  人かたちきよけにてとし廿はかり 
-  なりけるかまうてあひてかへさに 
-  女のみちにゐたるあなくるし 
-  かくてやはいてたち給へる物ねた 
-  みしておとこ申にかもは車つくり 
-  てのせたてまつりてこのわたり/s9l 
- 
-https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/9 
- 
-  なるきさきのみねにすゑたてま 
-  つらむ女の事にはたいわうさかと 
-  にはたれをかと     いふほと 
-  にくれにけれはわりこさかしてく 
-  わせんとするにこのすけをやりす 
-  くすこの男やすむやうにておりて 
-   人しれす心たたすの神ならは 
-   おもふ心を空にしらなん 
-  かへし 
-   やしろにもまたきねすへすいしかみは/s10r 
- 
-   しることかたし人のこころを 
-  又もおこせけれとこのせうといそか 
-  して車にのせてゐていぬこの 
-  すけ人をつけていつくにかいてゐ 
-  ぬると見せけれはその家とみて 
-  けりあしたにふみあり神のをしへ 
-  たまへしかはなんさしてたて 
-  まつるかのいしかみの御もとにてけふ 
-  あらはふみをとり入てみれはこの 
-  せうといてはしりてちちぬし/s10l 
- 
-https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/10 
- 
-  ききたまふにいと物さはかしくこの 
-  わらははいつくからきたるそい 
-  つれのすき物の使そといひけれ 
-  は御ふみはたてまつらせつれと 
-  昨日いませしぬしのいつれの使 
-  そとの給をうちからはおきなひた 
-  るこゑにてなに事そなとの給つ 
-  れはわつらはしさになんまうて 
-  きぬるといひけれはとうめのわらは 
-  といひて又のあしたに昨日の御かへし/s11r 
- 
-  たひたひいとおほつかなしこのわらは 
-  のあとはかなくてまうてきに 
-  しかは 
-   あとはかもなくやなりにしはま千鳥 
-   おほつかなみにさはくこころか/s11l 
- 
-https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/11 
 [[index.html|篁物語]] [[index.html|篁物語]]
 ====== 1-4 さてこの女願ありて如月の初午に稲荷に参りけり・・・ ====== ====== 1-4 さてこの女願ありて如月の初午に稲荷に参りけり・・・ ======
text/takamura/s_takamura1-04.1661703613.txt.gz · 最終更新: 2022/08/29 01:20 by Satoshi Nakagawa