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text:sesuisho:n_sesuisho1-131 [2021/05/27 21:07] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:sesuisho:n_sesuisho1-131 [2021/11/03 16:43] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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博奕(ばくち)に打ち負け詮方(せんかた)なき者、冬の暮れ髪を剃りて法師となり、法華宗の寺に行き、「座敷の掃除をもつかまつり候はん」といふ時、「経をば覚えたりや」と問はれ、「なかなかのこと」と答ふ。「さらばまづ置きてもみよ」とありけり。 | 博奕(ばくち)に打ち負け詮方(せんかた)なき者、冬の暮れ髪を剃りて法師となり、法華宗の寺に行き、「座敷の掃除をもつかまつり候はん」といふ時、「経をば覚えたりや」と問はれ、「なかなかのこと」と答ふ。「さらばまづ置きてもみよ」とありけり。 | ||
- | その晩景(ばんけい)、旦那のもとより使者来たり。「明日は親の年忌(ねんき)なるでう、僧衆十人にて一部経を勤め給へ」となり。かの新し坊主、終夜(よもすがら)工夫するに、経を読むべきやうなし。「われ、若き時、薬屋に奉公し、薬種の名を覚えたり。これにて筈(はづ)を合はせん」と思ひ、すでに妙法蓮華経と始まりける時、そのままかの人付くる。 | + | その晩景(ばんけい)、檀那のもとより使者来たり。「明日は親の年忌(ねんき)なるでう、僧衆十人にて一部経を勤め給へ」となり。かの新し坊主、終夜(よもすがら)工夫するに、経を読むべきやうなし。「われ、若き時、薬屋に奉公し、薬種の名を覚えたり。これにて筈(はづ)を合はせん」と思ひ、すでに妙法蓮華経と始まりける時、そのままかの人付くる。 |
「桔梗(ききやう)・人参(にんじん)・続断(ぞくだん)・白朮(びやくじゆつ)・干姜(かんきよう)・木香(もつかう)・白芷(びやくし)・黄連(わうれん)」と言ひけるを、薬屋の亭主聴聞して、「あらありがたたや。われわれが売り買ふ薬種は、みな法華経の肝文(かんもん)にてあるよな」と、かの坊をひたもの拝みしも。 | 「桔梗(ききやう)・人参(にんじん)・続断(ぞくだん)・白朮(びやくじゆつ)・干姜(かんきよう)・木香(もつかう)・白芷(びやくし)・黄連(わうれん)」と言ひけるを、薬屋の亭主聴聞して、「あらありがたたや。われわれが売り買ふ薬種は、みな法華経の肝文(かんもん)にてあるよな」と、かの坊をひたもの拝みしも。 | ||
行 19: | 行 19: | ||
敷(しき)の掃除(さうし)をも仕候はんといふ時経をはおほ | 敷(しき)の掃除(さうし)をも仕候はんといふ時経をはおほ | ||
えたりやととはれ中々の事とこたふさらは | えたりやととはれ中々の事とこたふさらは | ||
- | まつをきても見よとありけり其(その)晩景(はんけい)旦那(たんな) | + | まつをきても見よとありけり其(その)晩景(はんけい)檀那(たんな) |
のもとより使者来り明日は親(おや)の年忌(ねんき) | のもとより使者来り明日は親(おや)の年忌(ねんき) | ||
なる条僧衆十人にて一部経をつとめ給へと | なる条僧衆十人にて一部経をつとめ給へと |
text/sesuisho/n_sesuisho1-131.1622117231.txt.gz · 最終更新: 2021/05/27 21:07 by Satoshi Nakagawa