ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:mumyosho:u_mumyosho001

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

次のリビジョン
前のリビジョン
text:mumyosho:u_mumyosho001 [2014/09/05 03:32] – 作成 Satoshi Nakagawatext:mumyosho:u_mumyosho001 [2014/09/27 15:50] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
行 1: 行 1:
-====== 第1話 題心 ======+無名抄 
 +====== 第1話 題心 ======
  
 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
 +
 +** 題心 **
 +
 +歌は題の心をよく心得べきなり。俊頼の髄脳といふ物にぞ記して侍るめる。
 +
 +必ずまはして詠むべき文字、中々まはしては悪く聞こゆる文字あり。
 +
 +必ずしも詠み据ゑねども、おのづから知らるる文字もあり。いはゆる暁天落花・雲間郭公・海上名月、これらのごとくは、第二の文字、必ずしも詠まず。みな下(しも)の題を詠むに具して聞こゆる文字あり。
 +
 +これらは教へ習ふべき事にあらず。よく心得つれば、その題を見るにあらはなり。
 +
 +また、題の歌は必ず心ざしを深く詠むべし。たとへば、祝ひには限りなく久しき心を言ひ、恋にはわりなく浅からぬよしを詠み、若しは命に代へて花を惜しみ。家路を忘れて紅葉を尋ねんごとく、その物に心ざを深く詠むべきを、古集の歌どもの、さしも見えぬは、歌ざまのよろしきによりて、その難を許せるなり。
 +
 +もろもろの難ある歌、この会尺によりて撰び入るる、常のことなり。されど、かれをば例とすべからず。いかにも歌合などに、同じほどなるにとりては、今少し題を深く思へるを勝ると定むなり。たとへば、説法する人の、その仏に向ひてよく讃嘆するがごとし。
 +
 +ただし、「題をば必ずもてなすへきぞ」とて、古く詠まぬほどの事をば心すべし。たとへば、郭公などは、山野を尋ね歩(あり)きて聞く心を詠む。鶯ごとくは、まづ心をば詠めども、尋ねて聞くよしはいと詠まず。また、鹿の音などは、聞くに物心細く、あはれなるよしをば詠めども、待つよしをばいとも言はず。かやうの事、ことなる秀句など無くば、必ず去るべし。また、桜をば尋ぬれど、柳をば尋ねず。初雪などをば待たず。「花をば命に代へて惜しむ」など言へども、紅葉をばさほどには惜しまず。これらを心得ぬは、故実を知らぬやうなれば、よくよく左歌などをも思ひときて、歌のほどに随ひ、はからふべきことなり。
  
 ===== 翻刻 ===== ===== 翻刻 =====
  
 +  題心
   謌は題の心をよく心うへきなり俊頼の髄脳   謌は題の心をよく心うへきなり俊頼の髄脳
   といふ物にそしるして侍めるかならすまわして   といふ物にそしるして侍めるかならすまわして
行 11: 行 29:
   もおのつからしらるる文字もありいはゆる   もおのつからしらるる文字もありいはゆる
   暁天落花雲間郭公海上名月これらのこと   暁天落花雲間郭公海上名月これらのこと
-  ことは第二の文字かならすしもよますみなし+  は第二の文字かならすしもよますみなし
   もの題をよむに具してきこゆる文字あり/e2r   もの題をよむに具してきこゆる文字あり/e2r
  
行 19: 行 37:
   ひにはかきりなくひさしき心をいひ恋には   ひにはかきりなくひさしき心をいひ恋には
   わりなくあさからぬよしをよみもしは命に   わりなくあさからぬよしをよみもしは命に
-  かへてをおしみいへちをわすれてもみちを+  かへてをおしみいへちをわすれてもみちを
   たつねんことくその物に心さしをふかくよむへ   たつねんことくその物に心さしをふかくよむへ
   きを古集の哥とものさしも見えぬは哥/e2l   きを古集の哥とものさしも見えぬは哥/e2l
行 37: 行 55:
   物心ほそくあはれなるよしをはよめともまつ   物心ほそくあはれなるよしをはよめともまつ
   よしをはいともいはすか様の事ことなる秀句   よしをはいともいはすか様の事ことなる秀句
-  なとなくはかならすさるへし又桜をはたつれと +  なとなくはかならすさるへし又桜をはたつれと 
-  柳をはたつねす初なとをはまたす花をは命+  柳をはたつねす初なとをはまたす花をは命
   にかへてをしむなといへとも紅葉をはさほとには/e3l   にかへてをしむなといへとも紅葉をはさほとには/e3l
  
text/mumyosho/u_mumyosho001.1409855538.txt.gz · 最終更新: 2014/09/05 03:32 by Satoshi Nakagawa