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text:kohon:kohon027 [2014/05/16 02:51] – 作成 Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon027 [2016/01/21 13:11] (現在) Satoshi Nakagawa
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-====== 第話  ======+古本説話集 
 +====== 第27話 河原院の事 ======
  
 **河原院事** **河原院事**
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
 +
 +今は昔、河原院は融の左大臣((源融))の作りたりける家なり。陸奥(みちのく)の塩竃(しほがま)のかたを作りて、潮(うしほ)の水を汲みて湛へたり。さまざま、をかしきことを尽くして住み給ひける。
 +
 +大臣(おとど)失せて後、宇多の院((宇多天皇))には奉りたるなり。醍醐御門((醍醐天皇))は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。
 +
 +まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうに思されければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりて居たり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)のことなり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りて居たらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、高やかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。
 +
 +そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはしますものなり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞ言ひける。
 +
 +かくて、院失せさせ給ひて後、住む人も無くて荒れゆきけるを、貫之((紀貫之))、土佐より上りて参りて見けるに、あはれに思えければ、ひとりごちける
 +
 +  君なくて煙絶えにし塩竈の浦さびしくも見えわたるかな
 +
 +その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、ながめて詠める、
 +
 +  天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月
 +
 +昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道((能因法師))
 +
 +  年経れば河原に松は生ひにけり子の日しつへき寝屋の上かな
 +
 +    里人の汲むだに今はなかるべし磐井の清水草生ひにけり\\ 
 +  (里人の汲むだに今はなかるべし板井の清水水草ゐにけり)((カッコ内は傍書を採用した場合の本文。添付画像参照。))
 +
 +道済((源道済))が歌
 +
 +  行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたくおひにけるかな
 +
 +なむどなむ言ひける。その後、いよいよ荒れまさりて、松の木も一年(ひととせ)の風に倒れにしかば、あはれにこそ。
  
 ===== 翻刻 ===== ===== 翻刻 =====
行 22: 行 52:
   ひのしやうそくうるはしくしたるひとの   ひのしやうそくうるはしくしたるひとの
   たちはきしやくとりて二けむはかりのきて   たちはきしやくとりて二けむはかりのきて
-  かしこまりてゐたあれはたそととはせ+  かしこまりてゐたあれはたそととはせ
   給へはここのぬしに候おきななりと申/b78 e40   給へはここのぬしに候おきななりと申/b78 e40
  
行 42: 行 72:
   みけるにあはれにおほえけれはひとりこち   みけるにあはれにおほえけれはひとりこち
   ける   ける
-    君なくてけふりたにししほかまの+    君なくてけふりたにししほかまの
     浦さひしくもみえわたるかな     浦さひしくもみえわたるかな
   そののちこの院を寺になしてあほうきみ   そののちこの院を寺になしてあほうきみ
行 55: 行 85:
     としふれはかはらにまつはおひにけり     としふれはかはらにまつはおひにけり
     ねの日しつへきねやのうへかな     ねの日しつへきねやのうへかな
-    さとひとの(くむたにいま本)てむたになかるへし+    さとひとの(くむたにいま本)てむたになかるへし
     いはゐのしみつくさおひにけり/b81 e41     いはゐのしみつくさおひにけり/b81 e41
      (た)          (みくさゐ)      (た)          (みくさゐ)
行 65: 行 95:
   まさりて松の木もひととせの風にたふ   まさりて松の木もひととせの風にたふ
   れにしかはあはれにこそ/b82 e42   れにしかはあはれにこそ/b82 e42
 +  
 +{{:text:kohon:kohon027.png?nolink|}}
text/kohon/kohon027.1400176287.txt.gz · 最終更新: 2014/05/16 02:51 by Satoshi Nakagawa