text:kohon:kohon002
差分
このページの2つのバージョン間の差分を表示します。
両方とも前のリビジョン前のリビジョン次のリビジョン | 前のリビジョン | ||
text:kohon:kohon002 [2014/05/07 03:02] – [翻刻] Satoshi Nakagawa | text:kohon:kohon002 [2016/01/20 14:19] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
---|---|---|---|
行 1: | 行 1: | ||
+ | 古本説話集 | ||
====== 第2話 公任大納言、屏風歌遅く進ずる事 ====== | ====== 第2話 公任大納言、屏風歌遅く進ずる事 ====== | ||
行 6: | 行 7: | ||
===== 校訂本文 ===== | ===== 校訂本文 ===== | ||
+ | |||
+ | 今は昔、女院((上東門院・藤原彰子))、内裏へはじめて((転倒記号あり))入らせおはしましけるに、御屏風どもをせさせ給て、歌詠みどもに詠ませさせ給ひけるに、四月、藤の花面白く咲きたりけるひらを、四条大納言((藤原公任))、あたりて詠み給けるに、その日になりて、人々歌ども持て参りたりけるに、大納言遅く参りければ、御使して、遅きよしをたびたび仰せられつかはす。 | ||
+ | |||
+ | 権大納言行成((藤原行成))、御屏風たまはりて、書くべきよし、なし給ひければ、いよいよ立ち居待たせ給ふほどに、参り給へれば、歌詠ども、「はかばかしき((新大系、「歌」欠字かという))どもも、え詠み出でぬに、さりとも」と、誰も心にくがりけるに、御前に参り給ふや遅きと、殿の、「いかにぞ、あの歌は。遅し」と、仰せられければ、「さらにはかばかしく仕らず。悪くて奉りたらんは、参らせぬには劣りたる事なり。歌詠むともがらの優れたらん中に、はかばかしからぬ歌、書かれたらむ。長き名にさぶらふべし」と、やうにいみじくのがれ申し給へど、殿、「あるべき事にもあらず。異人の歌なくても有なむ。御歌なくは、大方色紙形を書くまじき事なり」など、まめやかに責め申させ給へば、大納言、「いみじく候ふわざかな。こたみは誰もえ詠みえぬたびに侍るめり。中にも公任をこそ、さりともと思ひ給ひつるに、『岸の柳』といふ事を詠みたれば、いと異様なる事なりかし。これらだにかく詠みそこなへば、公任はえ詠み侍らぬもことはりなれば、許したぶべきなり」と、さまざまに逃がれ申し給へど、殿、あやにくに責めさせ給へば、大納言、いみじく思ひわづらひて、ふところより陸奥紙に書きて奉り給へば、広げて前に置かせ給ふに、帥殿((藤原伊周))より始めて、そこらの上達部・殿上人、心にくく思ひければ、「さりとも、この大納言、故なくは詠み給はじ」と思ひつつ、いつしか、帥殿読み上げ給へば、 | ||
+ | |||
+ | 紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらん | ||
+ | |||
+ | と読み上げ給ふを聞きてなむ、褒めののしりける。 | ||
+ | |||
+ | 大納言も、殿を始め、みな人、「いみじ」と思ふ気色を見給て、「今なむ胸少し落ちゐ侍ぬ」など申し給ひける。 | ||
+ | |||
+ | 白河の家におはしける頃、さるべき人々、四五人ばかりまうでて、「花の面白き、見に参りつる也」と言ひければ、大御酒など参りて詠み給ひける、 | ||
+ | |||
+ | 春来てぞ人も問ひける山里は花こそ宿の主なりけれ | ||
+ | |||
+ | 人々めでて詠み合ひけれど、なずらひなるなかりけり。 | ||
===== 翻刻 ===== | ===== 翻刻 ===== | ||
- | いまはむかし女院はしめてうちへいらせおはし | + | いまはむかし女院うちへはしめていらせおはし |
ましけるに御ひやう風ともをせさせ給て | ましけるに御ひやう風ともをせさせ給て | ||
うたよみともによませさせ給けるに四月/b25 e12 | うたよみともによませさせ給けるに四月/b25 e12 |
text/kohon/kohon002.txt · 最終更新: 2016/01/20 14:19 by Satoshi Nakagawa