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text:kankyo:s_kankyo028

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text:kankyo:s_kankyo028 [2015/08/03 04:45] – 作成 Satoshi Nakagawatext:kankyo:s_kankyo028 [2026/02/02 10:19] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
-  もろこしに侍し時人のかたり侍しは昔この +[[s_kankyo027|<<PREV]] [[index.html|『閑居友』TOP]] [[s_kankyo029|NEXT>>]]
-  国にいやしからぬ人ありけりそのいゑきはめて/下22オb193+
  
-  ゆたか也秋夜高楼のほて月おなかめてありけ +唐土(もろこし)りし時、の語りしは、昔、このしからぬ人ありけり。その家、極め豊かなり。
-  るに夜つまりねさたまておとする物なし +
-  かかけるにそこなりけむむまとうともの +
-  かたりをなんしける馬のいふやうあなかなし +
-  わひしいかなるつみのむくひにてこのつか +
-  はれてひるは日くらといふはりによくつかはれたる +
-  んよるも心よくうちやすむへきにつゑめことに +
-  いたくわひしくくるしく心のままにもゑ/下22ウb194+
  
-  やすますあまたいかさまにつかはれんとすらん +秋夜、高楼に登りて、月を眺めてありけるに、夜静り、人寝さだまりて、音る物なし。かかりけるに、そこなりける馬と牛と物語りをなんしける。馬の言ふやう、「な、悲し、わびし。いかなる罪の報ひにて、この人に使はれて、昼は日暮しといふばかりに、かく使はれ居(お)るらん。夜も心よくうち休むべきに、杖目(つゑめ)ことに痛くわびしく、あまり苦しくて、心のままにもえ休まず。明日、またいかさまに使はれんとすらんこれをふにとにかくに寝()ねもからず」また牛のふやう、「されこそあはれしきものかなかかる身をけたるとはさしあたりてはこの人のめしさするかた 
-  これををもふにとにかくにいねもやすから +なくゆるひけり
-  また牛のふやうされこそあはれかなしき +
-  ものかな我かかる身をけたるとはおももさし +
-  あたりてはたこの人のうらめしさするかた +
-  なくおほゆるとひけりこれをきくに心もあられす +
-  かなしくてめとむすめとにいふやう我はこよひし +
-  のひてこのいゑをいてんとおもふ事ありかかる/下23オb195+
  
-  事いまありんままにはかやうの事そつも +これを聞くに、心もあられず悲しくて、妻(め)と娘とに言ふやう、「我は、今夜(こよひ)忍びてこの家を出でんと思ふことあり。かかることるぞ。今、ありんままにはかやうのことぞ積。財(たから)は身の敵(あた)にて侍にこそこのば捨ててくともなくきて人もなからん所の、静かならんにきて後世のこと思ひてあらむなり。そこたちはここに留()まるひければ、二人の人のふやう、「誰みてある身なれ、残りては侍るべくにてもおはせんにこそ。「さらば、さにこそは侍るなれ」とて、親子三人、忍びに出でにけり。
-  へきたからは身のあたにて侍にこそこのいゑ +
-  はすてていくともなくきて人もなからん +
-  所のしつかならんにきて後世の事おも +
-  てあらむそこたちはここにとまるしと +
-  いひけれはふたりの人のふやうたれたの +
-  てある身なれのこりては侍きいくにて +
-  もおはせんかたにこそしためと/下23ウb196+
  
-  らはさにこそは侍なれとおやこ三人しのひに +さて、遥かにきて思ひかけぬ山の、庵、形のやうに構へ、笊器(さうき)といふものを日に三つりてこのにてりに出だしける
-  いてにけりさてはるかにきて思ひかけぬ山の +
-  ふもといほりかたのやうにかまゑてさうきといふ +
-  ものおひに三つりてこのむすめにてりに +
-  いたしけるかくてよをわたりけるほとにある時 +
-  このさうきをかふ人なしむなしく返ぬまた +
-  つきの日のふんくしてもていてたれともその日も +
-  かうものなしまたつきの日のふんくして九の/下24オb197+
  
-  さうきおもてきたりけれもこの日ももの +かくて世を渡りけるほどに、ある時、この笊器を買ふ人なし。むなしく返りぬ。また次の日の分、具して持()出でたれども、その日も買う者なし。また次の日の分、具して九の笊器を持て行きたりけれこの日もなし。娘、ひ歎きてかくてのみ日はなる。我が父母の命もへがたかるいかさまにせむひけるほ道にを一貫したりけりこの女、笊器をこの結び付けて、笊器価(あたひ)数へ、銭りて、残りの笊器とをば、もとの所にきてにけり
-  なしむすめなけきてかくてのみ日はかさなる +
-  わか父母の命もなかゑかたかるしいかさまにせ +
-  むとわつらひけるほに道にせにを一貫おとした +
-  りけりこの女さうきをこのにむすひつけて +
-  さうきのあたひをかそゑせにりてのこ +
-  せにさうきとをもとの所にきてにけり +
-  さてこのよしをかたりけれは父おほきにおとろ/下24ウb198+
  
-  きてふやうなにさいとなまんとてちたる +さて、このよしを語りければ、父、大きに驚きてふやう、「何ざ営まんとて、持ちたる銭にかありつらむ。親のものにてもありつらむ、主(しう)のものにてもあるたとひるにても笊器を置きて一のをこそけれいかなる、一人して笊器を九つ買ふことあるかかるりある心たらん、踈ましくはやみなきてもとの銭にしてだ笊器りて。娘、行て見るに、この銭、なほありければ、もとのままにして、笊器を取りて来て見れば、父も母も共に手を合はせて、頭(かうべ)を垂れて死ににけり。「あな、悲しのわざや。我もありては何(なに)かせん」とて、娘もそばに居て死ににけりとなん。
-  銭にかありつらむおやのものにてもありつらむし +
-  うのものにてもあるしたとひるにても一の +
-  さうきおおきて一のあたひをこそけれいか +
-  なるものひとりしてさうきを九かう事あるへ +
-  きかかるにこりある心たらんものうとましく +
-  おほゆはやみなきてもとの銭につらぬ +
-  くしてたたさうきりてよとむすめゆ/下25オb199+
  
-  てみるにのせになをありけはもとのままにして +これをりしにあはれたく侍まことにさやうの心をちてこそ仏のをもきに身にかに道を学ぶやうにすれ心はりに染みたらんは、さだめて三宝を欺く咎もあるべし。いかが侍るべからむと、悲しくあぢきなし。
-  さうきとりててみれはちちも母もともにてを +
-  あはせてかうへをたれてしににけあなかな +
-  しのわさや我もありてはなにかせんとてむす +
-  めもそはにいてしににけりとなんこれをきき +
-  侍しにあはれつくたく侍きまことにさやうの心 +
-  ちてこそ仏のみちをもねかきに身にわつ +
-  かに道をまなふやうにすれも心はつねにこりに/下25ウb200+
  
-  しみたらんは定て三宝をあさむくとかもある +かのの三人、今いかなる菩薩にてれの仏の御国(くに)にかいまそかるらん。「願はくは我心をあはれみて念々にしからむと心の中(うち)念じ。 
-  へしいかか侍へからむとかなしくあちきなしかのむか + 
-  しの三人いまいかなる菩薩にていれの仏のみ国 +さてもこの人もの姿をも、絵きてるとぞ、語り侍唐土かやうのことはいみけありて、亡き後までも侍るにや。この日本(やまと)の国には、さやうの人の姿、買う者もよにあらじ。描きて売らんとする人も、また稀(まれ)るべにや。 
-  にかいまそかるらんねかはくは我心をあはれみて念々に + 
-  かれひとしからむとおもこころたまへと +[[s_kankyo027|<<PREV]] [[index.html|『閑居友』TOP]] [[s_kankyo029|NEXT>>]]
-  心のうちにねんし侍きさてもこの人ものすかた +
-  をもきてるとそかたり侍しすも +
-  ろこしはかやうのはいみけありてなき/下26オb201+
  
-  あとまても侍にやこのやまとの国にはさやうの 
-  人のすかたかうものもよにあらしかきてうらん 
-  とする人もまたまれなるへきにや/下26ウb202 
-   
 ===== 翻刻 ===== ===== 翻刻 =====
  
行 94: 行 38:
   ゆたか也秋夜高楼にのほりて月おなかめてありけ   ゆたか也秋夜高楼にのほりて月おなかめてありけ
   るに夜しつまり人ねさたまりておとする物なし   るに夜しつまり人ねさたまりておとする物なし
-  かかりけるにそこなりけむまとうしともの+  かかりけるにそこなりけむまとうしともの
   かたりをなんしける馬のいふやうあなかなし   かたりをなんしける馬のいふやうあなかなし
   わひしいかなるつみのむくひにてこの人につか   わひしいかなるつみのむくひにてこの人につか
-  はれてひるは日くらしといふはかりにくつかはれ+  はれてひるは日くらしといふはかりにくつかはれ
   らんよるも心よくうちやすむへきにつゑめことに   らんよるも心よくうちやすむへきにつゑめことに
   いたくわひしくあまりくるしくて心のままにもゑ/下22ウb194   いたくわひしくあまりくるしくて心のままにもゑ/下22ウb194
行 152: 行 96:
   めもそはにいてしににけりとなんこれをきき   めもそはにいてしににけりとなんこれをきき
   侍しにあはれつくしかたく侍きまことにさやうの心   侍しにあはれつくしかたく侍きまことにさやうの心
-  をもちてこそ仏のみちをもねかふへきに身にわつ+  をもちてこそ仏のみちをもねかふへきに身にわつ
   かに道をまなふやうにすれとも心はつねににこりに/下25ウb200   かに道をまなふやうにすれとも心はつねににこりに/下25ウb200
  
行 162: 行 106:
   心のうちにねんし侍きさてもこの人とものすかた   心のうちにねんし侍きさてもこの人とものすかた
   をもゑにかきてうるとそかたり侍しすへても   をもゑにかきてうるとそかたり侍しすへても
-  ろこしはかやうの事はいみしくなけありてなき/下26オb201+  ろこしはかやうの事はいみしくなけありてなき/下26オb201
  
   あとまても侍にやこのやまとの国にはさやうの   あとまても侍にやこのやまとの国にはさやうの
text/kankyo/s_kankyo028.1438544751.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa