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text:k_konjaku:k_konjaku22-8 [2014/09/14 01:25] Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku22-8 [2015/03/25 18:57] – [巻22第8話 時平大臣取国経大納言妻語 第八] Satoshi Nakagawa
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 此の大臣は色めき給へるなむ少し片輪に見え給ひける。其の時に此の大臣の御伯父にて、国経の大納言と云ふ人有けり。其の大納言の御妻に、在原の□□と云ふ人の娘有けり。大納言は年八十に及て、北の方は僅に廿に余る程にて、形端正にして色めきたる人にてなむ有ければ、老たる人に具したるを頗る心行かぬ事にぞ思たりける。 此の大臣は色めき給へるなむ少し片輪に見え給ひける。其の時に此の大臣の御伯父にて、国経の大納言と云ふ人有けり。其の大納言の御妻に、在原の□□と云ふ人の娘有けり。大納言は年八十に及て、北の方は僅に廿に余る程にて、形端正にして色めきたる人にてなむ有ければ、老たる人に具したるを頗る心行かぬ事にぞ思たりける。
  
-甥の大臣、色めきたる人にて、伯父の大納言の北の方美麗なる由を聞き給て、見ま欲(ほし)き心御けれども、力及ばで過ぎ給けるに、其の比の□□者にて、兵衛の佐平の定文と云ふ人有けり。御子の孫にて賤ぬ人也。字をば平中とぞ云ける。其の此の色好にて、人の妻・娘・宮仕人、見ぬは少くなむ有ける。+甥の大臣、色めきたる人にて、伯父の大納言の北の方美麗なる由を聞き給て、見ま欲(ほし)き心御けれども、力及ばで過ぎ給けるに、其の比の□□者にて、兵衛の佐平の定文((平貞とも書く))と云ふ人有けり。御子の孫にて賤ぬ人也。字をば平中とぞ云ける。其の此の色好にて、人の妻・娘・宮仕人、見ぬは少くなむ有ける。
  
 其の平中、此の大臣の御許に常に参ければ、大臣、「若し此の伯父の大納言の妻をば、此の人や見たらむ」と思給て、冬の月の明かりける夜、平中参たりけるに、大臣万の物語などし給ける程に、夜も深更にけり。 其の平中、此の大臣の御許に常に参ければ、大臣、「若し此の伯父の大納言の妻をば、此の人や見たらむ」と思給て、冬の月の明かりける夜、平中参たりけるに、大臣万の物語などし給ける程に、夜も深更にけり。
  
-可咲き事共語たりける次に、大臣、平中に宣はく「我れが申さむ事、実に思されば、努隠さずして宣へ。近来女の微妙きは誰か有る」と。平中が云く「御前にて申すは傍痛き事には候へども、『我を実に思はば隠さず』と仰せらるれば申し候ふ也。藤大納言の北の方こそ、実に世に似ず微妙き女は御すれ」と。大臣宣はく、「其れは何で見られしぞ」。平中が云く、「其(そこ)に候ひし人を知て候ひしが申候ひし也。『年老たる人に副たるを、極く侘しき事になむ思たる』と聞候ひしかば、破(わ)り無く構て云せて候ひしに、『にくから((底本「にく」は、りっしん))ず』となむ思たる由を聞き候て、意(おもは)ず忍て見て候し也。打解て見る事も候ざりき」と。大臣、「糸悪き態をも為されけるかな」とぞ、なむ咲ひ給ひける。+可咲き事共語たりける次に、大臣、平中に宣はく「我れが申さむ事、実に思されば、努隠さずして宣へ。近来女の微妙きは誰か有る」と。平中が云く「御前にて申すは傍痛き事には候へども、『我を実に思はば隠さず』と仰せらるれば申し候ふ也。藤大納言の北の方こそ、実に世に似ず微妙き女は御すれ」と。大臣宣はく、「其れは何で見られしぞ」。平中が云く、「其(そこ)に候ひし人を知て候ひしが申候ひし也。『年老たる人に副たるを、極く侘しき事になむ思たる』と聞候ひしかば、破(わ)り無く構て云せて候ひしに、『((「にく」底本異体字。りっしんべん))からず』となむ思たる由を聞き候て、意(おもは)ず忍て見て候し也。打解て見る事も候ざりき」と。大臣、「糸悪き態をも為されけるかな」とぞ、なむ咲ひ給ひける。
  
 然て心の内に、「何で此の人を見む」と思ふ心深く成にければ、其より後は此の大納言を伯父に御すれば、事に触て畏まり給ければ、大納言は有難く忝き事になむ思給ける。妻取給はむと為るをば知らずして、大臣、心の内には可咲くなむ思給ける。 然て心の内に、「何で此の人を見む」と思ふ心深く成にければ、其より後は此の大納言を伯父に御すれば、事に触て畏まり給ければ、大納言は有難く忝き事になむ思給ける。妻取給はむと為るをば知らずして、大臣、心の内には可咲くなむ思給ける。
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 申時打下る程に渡給へれば、御坏など度々参る程に日も暮ぬ。歌詠ひ遊び給ふにおもしろ((底本言偏に慈))く微妙し。其の中にも、左の大臣の御形より始め、歌詠ひ給へる有様、世に似ず微妙ければ、万の人、目を付て讃め奉るに、此の大納言の北の方は、大臣の居給へる喬(そば)の簾より近くて見るに、大臣の御形ち・音・気はひ・薫の香より始て、世に似ず微妙きを見るに、我が身の宿世、心疎(う)思ゆ。 申時打下る程に渡給へれば、御坏など度々参る程に日も暮ぬ。歌詠ひ遊び給ふにおもしろ((底本言偏に慈))く微妙し。其の中にも、左の大臣の御形より始め、歌詠ひ給へる有様、世に似ず微妙ければ、万の人、目を付て讃め奉るに、此の大納言の北の方は、大臣の居給へる喬(そば)の簾より近くて見るに、大臣の御形ち・音・気はひ・薫の香より始て、世に似ず微妙きを見るに、我が身の宿世、心疎(う)思ゆ。
  
-「何なくる人、此る人に副て有らむ。我れは年老て旧臭((「臭」は底本異体字。「自」の下に「死」))(ふるくさ)き人に副たるが、事に触て六借(むづかし)く思ゆるに、弥よ此の大臣を見奉るに、心置所無く佗しく思ゆ」。大臣詠ひ遊び給ても、常に此の簾の方を尻目にて見遣り給ふ。眼見(まみ)などの恥かし気なる事、云はむ方無し。簾の内さへ破無し。大臣の頬咲(ほほえみ)て見遣(みおこ)せ給ふも、「何に思給ふにか有らむ」と恥かし。+「何なくる人、此る人に副て有らむ。我れは年老て旧臭(ふるくさ)き人に副たるが、事に触て六借(むづかし)く思ゆるに、弥よ此の大臣を見奉るに、心置所無く佗しく思ゆ」。大臣詠ひ遊び給ても、常に此の簾の方を尻目にて見遣り給ふ。眼見(まみ)などの恥かし気なる事、云はむ方無し。簾の内さへ破無し。大臣の頬咲(ほほえみ)て見遣(みおこ)せ給ふも、「何に思給ふにか有らむ」と恥かし。
  
 而る間、夜も漸く深更て、皆人痛く酔にたり。然れば、皆、紐解き袒(かたぬぎ)て、舞ひ戯る事限無し。此くて既に返り給ひなむと為るに、大納言、大臣に申し給はく、「痛く酔せ給ひにためり。御車を此に差し寄せて奉れ」と。大臣宣はく、「糸便無き事也。何でか然る事は候はむ。痛く酔ひなむ、此の殿に候ひて、酔醒てこそは罷出め」など有るに、他の上達部も「極く吉き事也」とて、御車を橋隠の本に只寄せに寄する程に、曳出物に極き馬二疋を引たり。御送物に箏など取出たり。 而る間、夜も漸く深更て、皆人痛く酔にたり。然れば、皆、紐解き袒(かたぬぎ)て、舞ひ戯る事限無し。此くて既に返り給ひなむと為るに、大納言、大臣に申し給はく、「痛く酔せ給ひにためり。御車を此に差し寄せて奉れ」と。大臣宣はく、「糸便無き事也。何でか然る事は候はむ。痛く酔ひなむ、此の殿に候ひて、酔醒てこそは罷出め」など有るに、他の上達部も「極く吉き事也」とて、御車を橋隠の本に只寄せに寄する程に、曳出物に極き馬二疋を引たり。御送物に箏など取出たり。
text/k_konjaku/k_konjaku22-8.txt · 最終更新: 2017/10/18 12:12 by Satoshi Nakagawa