錫杖(しやくぢやう)は梵網経の中に、「菩薩比丘十八種の物ばかりこれを持つ。住処定めなく、鳥の飛びあるくごとくなるべし」と見えたり。三衣(さんえ)等の物なり。錫杖は乞食(こつじき)にもこれを持つ。また毒蛇などの恐れのためとも見えたり。また、地蔵菩薩の持ち給へる、ゆゑあるらん。六輪あり。六道の苦を救ひ給ふ具足にや。習ひも侍るにこそ。懺法阿弥陀経(せんぼふあみだきやう)等の次(なみ)にも、必ずこれを誦す。
紀州の由良の故真知長老の寺に、先年、霊(りやう)、行者に託して語り侍りし。大天狗なりける僧ども、「火界の呪をもつて加持しければ、口より火の出でてわれを焼く」とて、僧を恨みあたみける。長老、出でて、「さまざまのこと問ふ」とてありける中に、「若くして遁世し、渡宋して、母のこと互ひに知らず。昔の洞山(とうざん)1)のごとくなりけり。かの母の恨み深くして、和尚の道行の障りとなるべし。その国の何と云ふ所におはするなり。迎へ寄せて養ひ殺し2)給へ」と云ひければ、尋ね逢うて、由良にて養ひ殺されけると云へり。
天狗の云はく、「常に寺の前の木の上へ来たり侍る。わがために九条の錫杖、もしは三反(さんべん)、もしは一反誦(じゆ)して給へ」と云ふ。僧の云はく、「法楽多し。など、とりわき錫杖を所望(しよまう)する」と。「いづれとも貴く侍れども、ことに錫杖、魍魎(まうりやう)・鬼神の段(だん)を聞き侍れば、苦患(くげん)の助かり侍るなり」と云ひける。
ある人の家に、夕ごとに礫(つぶて)打つこと、次第におびたたしく侍りしにも、施餓鬼し、錫杖、尊勝陀羅尼(そんじようだらに)誦して侍りしかば、すなはち打ち止みて侍りし。世間に、人ごとに昔より誦し慣れたることもつともしかるべし。
ただし、諸山寺に誦するを聞くに、句を悪しく誦するゆゑか、益少なし。声明師(しやうみやうし)に、若く侍りし時、学びて侍りしは、句ごとにめでたし。「錫杖の声を聞けば、懈怠(けだい)の者も精進なり。破戒の者も持戒(ぢかい)なり。不信の者も信ぜしむなり」などと誦するを、世間に誦するは「錫杖の声を聞けば懈怠の者、精進は破戒の者、持戒は不信の者、信ぜしむるは慳貪の者」等誦すれば、この句にては、みな人悪人になるべし。いまいましき禁忌のことなるべし。さて、はかばかしき人まれなるをや。よく誦せば、めでたくありぬべし。
因(ちなみ)に、天台大師3)の和讃も人悪しく誦す。「瑞朝亘三百里、渠梁(きよりやう)合ひて六十所、一時に法流は成りてこそ、流水品(るすいぼん)をぞ説き給へ」。「亘りて」と誦するは誤りなり。「亘(わたり)」と誦すべし。渠梁は海に潮(うしほ)の満ちたる時、立て廻はして魚を取る具足(ぐそく)なり。亘(わたり)三百六十所ありけり。大師すすめて止(や)め給ひて、金光明経の流水長者品(るすいちやうじやぼん)を講じ給けることなり。流水長者は、持水長者(ぢすいちやうじや)の子、慈悲深くして、医師(いし)して人を助けけるなり。大きなる池に八千の魚ありて、水涸(つ・かは)き乾くなり。長者、これを哀みて、王宮(わうぐう)へ参りて、大象を申し請けて、皮の袋に水を盛(い)れて、象に負うせて、しめ池に入れて池の魚を助く。また、王宮に米(よね)を乞ひて与へて、十二因縁の章句を説き、宝勝如来の名号(みやうごう)を唱へて、魚に聞かしむ。つひに魚死して、如来の名号、十二因縁の章句を聞くによつて、忉利天(たうりてん)に生まれて、恩徳を報ぜんため、天の妙華・瓔珞(やうらく)をして、長者に供養しき。
また、「斎(さい)の庭に数ふれば」と云ふこと、人、分明(ぶんみやう)に知らざるか。斎(さい)と云ふは、大斎を御忌日にしける千僧供なり。知らざる僧一人ありけることなり。大師4)、御影向(やうがう)にや。
斎を「いもひ」と云ふことは、劫初(こふしよ)の時、六斎の日、鬼神世界に流行(るぎやう)して、多く人を悩ましけり。智者ありて、人を教へて、「彼の日、閑室(かんしつ)に閉ぢ籠り、断食し、香を焼き、三業(さんごふ)をしづめ、出でて遊行(ゆぎやう)せずは、鬼神の恐れあるべからず、云々」。世間の物忌(ものいみ)の心なり。「いもひ」と云ふことは、「ものいみ」の心なるべし。仏、出世し給ひて、「有情(うじやう)衣食住(いしょくじゆ)とて、食せずはあるべからず。ただ、六道の因(いん)を断たんため、日中に一食すべし」と教へ給ひて、かの斎の名を一食に付け給へり。
これを知る人まれなり。大論5)等にこれあり。地獄は、夜、洋銅(やうどう)の汁を食す。鬼は初夜、修羅は日晡(じつほ)、畜は時なし、天は晨(しん・つとに)食すと云へり。仏は中道を表(へう)し、出家中夜、入滅中夜、国中国等なり。
駿河の鮎沢(あいさは)の一門なり。鎌倉の大臣殿6)、唐船(たうせん)作りて、湯井(ゆゐ)の浜より出だして、葛山7)、近習(きんじゆ)の者侍(さぶら)ひけるにて、唐へつかはしける。
互ひに志深き女房に別れんこと、悲しく覚えけり。そのころの入唐(につたう)の人、安穏(あんおん)なることまれなりければ、別れんことの悲しさに、「仲違ひたるよしをせん」と思ひて、文(ふみ)を書きて、女房の小袖のつまに入れて、これを見出だして、恨みたるよしにて、すでに唐船に乗りて漕ぎ出だしてけり。
船、遥かに押し出だしたりけるに、小船に人両三人乗りて、急ぎ漕ぎ寄せけり。見れば、かの女房なり。云ふことはなくて、たけなりける髪を、もとひのきわより押し切りて、唐船に投げ入れて、やがて漕ぎ戻してけり。
いとどあはれに思ひながら、主命なれば、はやはや筑紫まで行きたりけるに、大臣殿夭亡(えうばう)のことありけるゆゑに、渡宋(とそう)のことも思ひとどまり、やがて出家して高野に持斎梵行(ぢさいぼんぎやう)にて行ひけり。金剛三昧院に大臣殿墓所(むしよ)として、遺骨(ゆいこつ)などおさめ、寺になりければ、ことさらに奉行し、内外の仁なりけり。
多年の後(のち)、上洛して、清水寺(せいすいじ)へ参詣し、通夜したりけるに、わが尼公、参り合ひて物語しけり。「いかなる人にておはする」と問ひければ、「鎌倉の者なり」と答ふ。「何事によりて、御出家ありける」など、こまかに問ひ聞きければ、彼の因縁を語る。よくよく聞けば、昔の女房なりけり。互ひに知らず、音信(おとづれ)せずして多年、自然に行き合ひて、あまりにあはれに覚えければ、高野の天野(あまの)は遁世門の比丘尼など住む所なるゆゑに、かしこへ具して扶持(ふち)しけり。あはれなる因縁なり。
真言の中に、敬愛(けいあい)の法と云ふは、夫婦・親子・君臣などの仲悪(わろ)きが、思ひ合ふ徳あり。すなはち愛染(あいぜん)の法等なり。本意は仏と衆生と思ひ合ふことなり。親子・君臣はまことに思ひ合ひたらむ利益あるべし。夫婦の思ひ合ひたらむは、輪廻(りんえ)の基(もとゐ)なり。
何の利益かあらむと思ひ侍るに、宝篋印陀羅尼(ほうけふいんだらに)等こそ、この呪の徳、「善夫良婦不求自得」と説かれたり。このこと、つらつら案ずるに、もつとも利益なり。衆生の迷ひの根本は三毒なり。これを断たんこと、第三学の修行、功を積み徳を重ぬ。頓(とん)に除くべからず。しかるに、神呪の徳、敬愛の法、まづ夫婦思ひ合ひて心安ければ、欲恚(よくい)の二縛(にばく)が中には、恚(い)の縛をとき、水火の二河(にが)には、火の河を出でたり。愚痴は無明なり。ことに頓に断ずべからず。
もし思ひ合はざる人は、夫は念者もて、妻まめ男あれば、朝夕仲悪しくして、二つの縄(つな)強く縛り、二の河深く沈む。讒臣(ざんしん)は国を乱り、妬婦(とふ)は家を破ると云ひて、現世も家中おだしからず、後生は云ふに及ばず、毒蛇・悪鬼と成りて、生々(しやうじやう)に怨(あた)たるべし。
思ひ合ひぬれば、まづ一つの縄とき、一つの河を出でて、やうやく年齢たけぬれば、愛執(あいしゆ)は薄くして、芳心ありければ、遅れ先立つ道に、なつかしかりし志を中だちとして、遅るる身は彼の菩提を丁寧にとぶらひ、先たるはかの追福の志深きを得て、抜苦与楽(ばつくよらく)すべし。他(た)のためと思へども、わが功徳ともなれば、互ひの善知識(ぜんちしき)たるべし。
彼の尼公、情け深くして、やがて出家しけり。もし思ひ合ずは、別(べち)の夫(をつと)をもまうけ、遁世の心あるべからず。されば、真言の敬愛、道行の方便なり。いかがたやすく三毒を断たんや。
陀羅尼の功徳、もつともしかるべきことなり。有心の輩(ともがら)、捨家棄欲(しやけきよく・いえをすてよくをすつる)の沙門になることかたく思へば、敬愛の法を行ぜしめ、陀羅尼の力を仰いで、在家の身なりとも、仏道に入る方便を心中に思ひそむべし。経8)に、「欲の釣(つりばり)をもつて、引いて道に入る」と云へり。情けなく放逸(はういつ)にして、思ふべき人に思ひつかざらむ輩、菩薩の方便も及びがたかるべし。このこと、自然に思ひ寄られてこれを記す。道理必ずしかなるべし。大聖の方便にもあづかり、今世(こんぜ)・後世、安穏なることありぬべしとも覚え侍り。
錫杖ノ事 錫杖ハ梵網経ノ中ニ菩薩比丘十八種ノ物ハカリ持之住処 定ナク鳥ノ飛アルク如クナルヘシト見ヘタリ三衣等ノ物ナリ錫 杖ハ乞食ニモ持之又毒蛇ナトノ恐ノタメトモ見ヘタリ又地蔵/3-36l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/36
菩薩ノ持給ヘル故ヘ有ル覧六輪アリ六道ノ苦ヲスクヒ給具足ニヤ 習モ侍ルニコソ懺法阿弥陀経等ノ次ニモ必ス誦ス之ヲ ○紀州ノ由良ノ故真知長老ノ寺ニ先年霊行者ニ託シテ語リ 侍シ大天狗ナリケル僧トモ火界ノ呪ヲ以テ加持シケレハ口ヨリ 火ノイテテ我ヲヤクトテ僧ヲ恨ミアタミケル長老出テテ様々ノ事 問トテアリケル中ニワカクシテ遁世シ渡宋シテ母ノ事タカヒニシラス 昔ノ洞山ノ如クナリケリカノ母ノ恨ミ深クシテ和尚ノ道行ノ障ト ナルヘシ其ノ国ノナニト云所ニヲハスル也ムカエヨセテ養ヒコロシ給ヘト 云ケレハ尋ネ逢フテ由良ニテ養ヒコロサレケルト云ヘリ天狗ノ云ク常ニ 寺ノ前ノ木ノ上ヘ来リ侍ル我カタメニ九条ノ錫杖若ハ三反若ハ一 反誦シテ給ヘト云僧ノ云法楽多シナトトリワキ錫杖ヲ所望スルト 何レトモ貴ク侍レトモコトニ錫杖魍魎鬼神ノ段ヲ聞キ侍レハ苦患ノ/3-37r
タスカリ侍ル也ト云ケル 或人ノ家ニ夕ゴトニツブテ打ツ 事次第ニヲビタタシク侍シニモ施餓鬼シ錫杖尊勝陀羅尼 誦シテ侍シカハ即チ打チ止ミテ侍シ世間ニ人ゴトニ昔ヨリ誦シナレタル コト尤モ可然ル但シ諸山寺ニ誦スルヲ聞クニ句ヲアシク誦スル故カ益 スクナシ声明師ニ若ク侍シ時学テ侍シハ句コトニ目出シ聞ハ錫 杖ノ声ヲ懈怠ノ者ノモ精進也破戒ノ者ノモ持戒也不信ノ者モ令也信セ等ト誦ルヲ世 間ニ誦スルハ聞錫杖声懈怠ノ者精進ハ破戒ノ者持戒ハ不信ノ者 令信ハ慳貪ノ者ノ等誦スレハコノ句ニテハミナ人悪人ニナルヘシイマイマ シキ禁忌ノ事ナルヘシサテハカハカシキ人マレナルヲヤヨク誦セハ目出ク アリヌヘシ ○因ニ天台大師ノ和讃モ人アシク誦ス瑞朝亘 三百里渠梁合テ六十所一時ニ法流ハ成テコソ流水品ヲソ説 給ヘ亘リテト誦スルハ誤也亘ト誦スヘシ渠梁ハ海ニ潮ノ満タル時/3-37l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/37
立廻シテ魚ヲ取ル具足也亘三百六十所有ケリ大師ススメテ止メ 給テ金光明経ノ流水長者品ヲ講シ給ケル事也流水長者ハ 持水長者ノ子慈悲深クシテ医師シテ人ヲ助ケケル也大ナル池ニ八 千ノ魚アリテ水涸カハクナリ長者此ヲ哀テ王宮ヘ参テ大象ヲ 申シ請ケテ皮ノ袋ニ水ヲ盛テ象ニ負セテシメ池ニ入テ池ノ魚ヲ助ク 又王宮ニ米ヲ乞テ与ヘテ十二因縁ノ章句ヲ説キ宝勝如来ノ 名号ヲ唱テ魚ニ聞シムツイニ魚死シテ如来ノ名号十二因縁ノ 章句ヲ聞ニヨツテ忉利天ニ生テ恩徳ヲ報センタメ天ノ妙華瓔 珞ヲシテ長者ニ供養シキ ○又斎ノ庭ニ数フレハト云事人 分明ニ不ル知ラ歟斎ト云ハ大斎ヲ御忌日ニシケル千僧供ナリ不ル 知僧一人有リケル事也大師御影向ニヤ斎ヲイモヒト云事ハ 劫初ノ時六斎ノ日鬼神世界ニ流行シテ多ク人ヲ悩マシケリ智/3-38r
者有テ人ヲ教テ彼ノ日閑室ニ閇ヂ籠リ断食シ香ヲ焼キ三業ヲ シヅメ出テ遊行セスハ鬼神ノ恐レ不可有云々世間ノ物忌ノ 心ナリイモヒト云事ハモノイミノ心ナルヘシ仏ケ出世シ給テ有情 衣食住トテ食セスハアルヘカラス但タ六道ノ因ヲタタンタメ日中ニ 一食スヘシト教ヘ給テカノ斎ノ名ヲ一食ニ付ケ給ヘリコレヲ知ル人 マレナリ大論等ニコレアリ地獄ハ夜洋銅ノ汁ヲ食ス鬼ハ初夜 修羅ハ日晡畜ハ無時天ハ晨食スト云ヘリ仏ケハ中道ヲ表シ出 家中夜入滅中夜国中国等也 ○駿河ノ鮎澤ノ一 門也鎌倉ノ大臣殿唐船作テ湯井ノ浜ヨリ出シテ葛山近 習ノ者侍ケルニテ唐ヘツカハシケルタカヒニ志深キ女房ニワカレン事 悲シク覚ヘケリ其ノ比ノ入唐ノ人安穏ナル事マレナリケレハワカレン 事ノカナシサニ中カタガヒタルヨシヲセント思テフミヲカキテ/3-38l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/38
女房ノ小袖ノツマニ入テコレヲ見出シテ恨ミタル由ニテ已ニ唐船ニ 乗テコキ出シテケリ船ハルカニヲシイタシタリケルニ小船ニ人両三 人乗テイソキコキヨセケリミレバカノ女房ナリ云事ハナクテタケ ナリケル髪ヲモトイノキワヨリヲシキリテ唐船ニナケ入テ軈テ コキモトシテケリイトドアハレニ思ヒナカラ主命ナレバハヤハヤ筑紫 マテ行タリケルニ大臣殿夭亡ノ事アリケル故ニ渡宋ノ事モ思トト マリヤカテ出家シテ高野ニ持斎梵行ニテ行ヒケリ金剛三昧院ニ 大臣殿墓所トシテ遺骨ナトヲサメ寺ニ成リケレハコトサラニ奉 行シ内外ノ仁也ケリ多年ノ後チ上洛シテ清水寺ヘ参詣シ通 夜シタリケルニ我尼公参リ合テ物ノ語リシケリイカナル人ニテヲハスル ト問ヒケレハ鎌倉ノ者也ト答フ何ニ事ニヨリテ御出家アリケルナト コマカニ問ヒ聞ケレハ彼ノ因縁ヲカタルヨクヨク聞ケハムカシノ女房也/3-39r
ケリタガヒニ不知音信セズシテ多年自然ニ行合テアマリニアハレニ 覚ヘケレハ高野ノ天野ハ遁世門ノ比丘尼ナドスム所ナル故ニカシコ ヘ具シテ扶持シケリアハレナル因縁也真言ノ中ニ敬愛ノ法ト云ハ 夫婦親子君臣ナトノ中ワロキカ思ヒ合徳アリ即チ愛染ノ法等 也本意ハ仏ケト衆生ト思ヒ合フ事也親子君臣ハマコトニ思ヒ合ヒタラム 利益アルヘシ夫婦ノ思合タラムハ輪廻ノ基也何ンノ利益カアラムト 思ヒ侍ルニ宝篋印陀羅尼等コソ此ノ呪ノ徳善夫良婦不求自 得ト説カレタリ此ノ事倩案スルニ尤モ利益也衆生ノ迷ヒノ根本ハ三毒 也断ンコト之ヲ第三学ノ修行功ヲツミ徳ヲカサヌ頓ニ不可除ク 然ニ神呪ノ徳敬愛ノ法先ツ夫婦思合テ心安ケレハ欲恚ノ二 縛カ中ニハ恚ノ縛ヲトキ水火ノ二河ニハ火ノ河ヲイテタリ愚痴ハ 無明也コトニ頓ニ不可断スモシ不ル思合ハ人ハ夫ハ念者モテ/3-39l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/39
妻マメヲトコアレハ朝夕中アシクシテ二ノ縄ツヨクシハリ二ノ河 フカク沈ム讒臣ハ国ヲ乱リ妬婦ハ家ヲ破ルト云テ現世モ家中 ヲダシカラス後生ハ云ニ不及ハ毒蛇悪鬼ト成テ生々ニ怨タルヘシ 思合ヌレハ先ツ一ノ縄トキ一ノ河ヲイテテ漸ク年齢タケヌレハ愛 執ハウスクシテ芳心アリケレハヲクレサキタツ道ニナツカシカリシ志ヲ 中タチトシテヲクルル身ハ彼ノ菩提ヲ丁寧ニトフラヒサキタルハ カノ追福ノ志フカキヲ得テ抜苦与楽スヘシ他ノタメト思ヘトモ 我カ功徳トモナレハタカヒノ善知識タルヘシ彼ノ尼公情ケフカクシテ ヤカテ出家シケリモシ思合スハ別ノ夫ヲモマフケ遁世ノ心アルヘ カラスサレハ真言ノ敬愛道行ノ方便也イカガタヤスク三毒ヲ タタンヤ陀羅尼ノ功徳尤モ可然ル事也有心ノ輩捨家棄欲ノ 沙門ニナル事カタク思エハ敬愛ノ法ヲ行セシメ陀羅尼ノ力ヲ/3-40r
仰テ在家ノ身ナリトモ仏道ニ入ル方便ヲ心中ニ思ヒソムヘシ経ニ 欲ノ鈎ヲモツテ引テ道ニ入ルト云ヘリ情ケナク放逸ニシテ思フヘキ人ニ 思ツカサラム輩菩薩ノ方便モ及ビカタカルヘシコノ事自然ニ思 ヨラレテ記ス之ヲ道理必ス然ナルヘシ大聖ノ方便ニモアツカリ今世 後世安穏ナル事アリヌヘシトモ覚ヘ侍リ/3-40l