とはずがたり
かこつ方なき思ひの慰めにもやとて、天王寺へ参りぬ。「釈迦如来、転法輪所(てんぽうりんしよ)」など聞くもなつかしく覚えて、「のどかに経をも読みて、しばしはまぎるる方なくて候はん」など思ひて、一人思ひ続くるも悲しきにつけても、女院1)の御方の御思ひ、推し量り奉りて、
春着てし2)霞の袖に秋霧のたち重ぬらん色ぞ悲しき
かこつかたなきおもひのなくさめにもやとて天王寺へまいりぬ しやか如来てんほうりんしよなときくもなつかしくおほえて のとかに経をもよみてしはしはまきるるかたなくて候はんなと おもひてひとりおもひつつくるもかなしきにつけても女院の 御かたの御おもひをしはかりたてまつりて 春きせしかすみの袖に秋きりのたちかさぬらん色そかなしき/s224r k5-32