醒睡笑 巻8 かすり
一寺の崇敬(そうぎやう)世に越えていつくしき喝食ありつるが、思ひも寄らぬ病(やまふ)にさそはれ、夕べの煙(けぶり)となれり。
かの骨を東堂、わが前に置き、衆中(しうちう)の僧に向かひ、「寒夜に焼き残す一束の柴」と いふ句を出だせり。つひに大衆(だいしゆ)の語出でず。時に東堂、「このは1)ばかり残つたよ」。
一 一寺の崇敬世に越ていつくしき喝食あり つるかおもひもよらぬやまふにさそはれ夕の煙 となれりかの骨を東堂我か前に置衆中 の僧にむかひ寒夜に焼残す一束の柴と いふ句をいたせり終に大衆の語不出時に 東堂この葉はかり残つたよ/n8-40l