醒睡笑 巻7 いひ損ひはなほらぬ
新しく家を造り、移徙(わたまし)して悦びなかばに、座頭一人来たりぬ。やうやう酒も数返(すへん)めぐりければ、「一句聞かん」と呼び出だし、「名をば何とかいふ」。「比一(ひいち)」と答ふ。「屋わたりにひいち1)は禁物さうな」と言ふを聞きて、「いや、くるしくもござあるまい。人付けて2)候ふほどに」と。
一 新く家を造りわたましして悦(よろこひ)半(なかば)に座(ざ) 頭一人きたりぬやうやう酒も数返(すへん)めぐり ければ一句きかんとよび出し名をはなに とかいふ比一(ひいち)と答(こたふ)屋わたりにひいちは 禁物(きんもつ)さうなといふをききていやくるしくも 御座あるまい人づけて候ほどにと/n7-14l