醒睡笑 巻7 思の色を外にいふ
酒造る亭主、「町屋は空地(くうち)なし。いかにも広きところに住みたや、住みたや」と、明けても暮れても案じけるが、ある時、京の三十三間1)に参り、ねんごろに見物し、堂の前にくだり、友達に向かひて、「別に望みはない。われはこの堂か欲しいは」。「何事にや」。「酒部屋にしたい」。
一 酒つくる亭主町(まち)屋は空地(くうち)なしいかにも ひろき処にすみたやすみたやと明て も暮ても案じけるが有時京の三十三間 に参りねんごろに見物し堂(だう)の前にくだ り友たちにむかひて別にのぞみはない我 は此堂かほしいは何事にや酒部屋に したい/n7-9r