醒睡笑 巻6 うそつき
津の国1)兵庫の浦へ、珍しき大魚を引き上げたるに、その名を知りたる者なし。この浦に、物知りの太夫といふあり。かれに見せて問へば、「これは『ほほらほ』といふ魚なり。世に知る者なし」と。
すなはち、「公方へ参らせん」と、持たせのぼりけり。物知りの太夫を呼びて、名を問はせ給へば、「名をば『くくらく』と申し上ぐる。「以前聞きたる者ありて、「この先の言うたると違うた」と咎むれば、「されば、無塩2)の時は『ほほらほ』、今はさがりたれば『くくらく』といふ」と申したり。
とかくまことでなければ、なにも都合せぬことよ。
一 津の国兵庫の浦へ珍しき大魚を引上たる に其名をしりたる者なし此浦に物知の太夫と/n6-60l
いふありかれに見せてとへばこれはほほらほと 云魚也世に知者なしと即公方へ参らせんと 持せのほりけり物知の太夫をよびて名をとはせ 給へは名をはくくらくと申上る以前聞たる者有 て此先のいふたるとちがふたととがむれはさればぶ ゑんの時はほほらほ今はさかりたればくくらくと いふと申たり とかく実てなけれはなにも都合せぬ事よ/n6-61r