醒睡笑 巻6 推はちがうた
隣より五つ六つなる息子、元日に来たり、「小歌を歌はう」と言ふ。夫婦ながら喜び愛し、「めでたや。歌うて聞かせよ」と所望しければ、「とととかかとはない中ぢや。銭が一文ない中ぢや」。
侘人(わびびと)は憂き世の中にいけらじと思ふことさへかなはざりけり
ちがうたり天地夜昼下戸上戸(あめつちよるひるげこじやうご)雪墨鈍智(ゆきすみどんち)人の貧福
貧法師
戸をささねども盗人そ来(こ)ぬ
とふも憂き世によしや恨みじ
影清く夜わたる月に秋の空
一 隣より五つ六つなるむすこ元日に来り小 哥をうたはふといふ夫婦なからよろこひあいし 目出たやうたふてきかせよと所望しけれはとと とかかとはない中じや銭か一文ない中じや 侘人はうき世の中にいけらしと おもふことさへかなはさりけり ちかふたり天地夜昼下戸上戸/n6-52l
雪すみ鈍智人の貧福 貧法師 戸をささねとも盗人そこぬ とふも憂世によしやうらみし 影清く夜わたる月に秋の空/n6-53r