醒睡笑 巻6 児の噂
帥(そち)1)が(ちご)児に、よりより口説きければ、「ともいへかくもいへ、嫌なり。所詮(しよせん)昔そちが児でありしを、わが思ひかけたるに、なびかなんだゆゑ、今そちが言ふになびかぬならん。報ひのほどを思へ」とぞ。
是非なうて過ぐしつるも、ある時かの児、人なしとや思しけん、ちらと味噌をちと舐めたるを、帥が見付けて一首、
むかし味噌児をなめたるむくひにや今また児になめらるるみそ
一 帥が児によりよりくときけれはともいへかくも いへいやなり所詮昔そちか児てありしを わか思ひかけたるになびかなむたゆへ今そちか いふになひかぬならんむくひの程をおもへとぞ是 非なうて過しつるもある時彼児人なしとや/n6-12r
おほしけんちらとみそをちとなめたるを帥か 見つけて一首むかし味噌児をなめたるむく ひにや今又児になめらるるみそ/n6-12l