醒睡笑 巻5 人はそだち
堺にて、故薬師院といふ医者(いしや)あり。客に対し可盃(べくさかづき)を出だせり。院主、興をもよほし、「この盃の名を、みつからたはぶれに『夏菊』と付けてこそ候ふは。そのゆゑは、しも1)に置かれねばなり」と語られしを、その座にありし者、ことの外に感じ、他席にて話すやう、「可盃を夏菊とはげにもなり。したに置かれぬほどに」。
一 堺にて故薬師院といふ医者(いしや)あり客に対し/n5-65r
べく盃を出せり院主興をもよほし此盃 の名をみつからたはふれに夏菊とつけて こそ候は其故はしもにをかれねばなりとかた られしを其座にありし者事の外に かんじ他席にてはなすやうへく盃を 夏菊とはげにもなりしたにをかれぬ程に/n5-65l