醒睡笑 巻5 人はそだち
商人の子を寺に置きたれば、毎朝とく机にかかり、「いで、店出さう、やれ」と言ふ。師の 坊主聞きかね、「寺林(じりん)にゐるは何の用を。『蓬(よもぎ)麻の間に生じ、矯(た)めざるに直し』と。良きを学び悪しきを直さんためにあらずや」と、面(つら)を一つ張りけり。頬をかかへ、「あら、麻おふせ1)が悪いよ。しかも米かみ2)をくはせたは」と。
一 商人の子を寺に置(おき)たれば毎朝とく机(つくへ) にかかりいてみせださふやれといふ師の 坊主聞かね寺林にゐるはなにの用を蓬生(よもきしやうして)/n5-58r
麻間(あさのあいたに)ためざるになをしとよきをまなびあ しきをなをさんためにあらすやとつらを 一つはりけりほうをかかへあらあさあふせかわ るいよしかも米かみをくはせたはと/n5-58l