醒睡笑 巻5 人はそだち
京にて、ある武士と見えたるが、人らしく馬に乗り通るに、坪の内より鞠を蹴出だしたれば、中間(ちゅうげん)、肝をつぶし、「餓鬼(がつき)め、覚えたるぞ」と言ふまま、鑓を直し突かんとしけり。主見て、「やれ、誰か扶持人(ふちにん)やら知らぬに、怪我をするな」と。
一 京にてある武士と見えたるが人らしく馬に/n5-57r
のりとをるに坪の内より鞠をけいたしたれは 中間肝をつぶし餓鬼(かつき)め覚えたるそといふ まま鑓をなほしつかんとしけり主見てやれ 誰か扶持(ふち)人やらしらぬにけがをするなと/n5-57l