醒睡笑 巻5 婲心
朝夕に木をこりて、親を養ふ孝養(きやうやう)の心、天に知れぬ。梶(かぢ)もなき舟に乗り、向ひの島に行くに、朝(あした)には南の風吹き、北の島に吹き付け、夕にはまた舟に木をこりゐたれば、北の風吹きて、家に吹き付けつ。
かくのごとくするほどに、年ごろになりて、おほやけに聞こし召し、大臣になし召し使はるる。その名を鄭太尉1)といひける。
一 朝夕に木をこりて親をやしなふ孝養(きやうよう)の心 天にしれぬ梶(かぢ)もなき舟に乗むかひの嶋 に行に朝には南の風吹北の嶋に吹つけ夕には 又舟に木をこりゐたれは北の風吹て家に吹つけ/n5-17l
つかくのことくする程に年比に成て大やけに きこしめし大臣になしめしつかはるる其名を 鄭太尉(ていたいい)といひける/n5-18r