醒睡笑 巻5 婲心
鎌倉の中納言為相1)は定家2)の孫なりし。相模の唱名寺3)といふ律家の寺あり。かしこの庭に、山々に先だち、いかにも早く紅葉する楓の木の候ふに、短冊を付けらる。
為相
いかにしてこの一本(ひともと)のしぐれけん山に先だつ庭のもみぢ葉
その翌年より、つねの色にかへり、紅葉をぞとどめける。
色には見せていふことはなし
春秋(はるあき)を草木にうつす天津空(あまつそら) 兼載4)
一 鎌倉の中納言為相(ためすけ)は定家の孫なりし 相模(さかみ)の唱名(しやうみやう)寺といふ律家の寺ありかしこ の庭に山々にさきたちいかにもはやく紅葉/n5-15r
する楓の木の候に短冊をつけらる 為相 いかにしてこの一本のしぐれけん 山にさきたつ庭の紅葉々 其翌年(よくねん)よりつねの色にかへり紅葉をそ ととめける 色には見せていふ事はなし 春秋を草木にうつす天津空 兼載/n5-15l