醒睡笑 巻4 そでない合点
山中にて如月1)中旬に、農夫二人連れ立ち出で、一人は山の北原、一人は南原、一町ばかりを隔て、畠(はた)を打ちけるが、南原に鼬(いたち)一つ走り出でたり。
見付けしを幸ひ、やにはに棒を振り上げ打ち殺さんとしけるを、北原より、「やれ彼岸(ひがん)じやに、おけ。ひらに彼岸ぞ、助けよ」と呼ばはる。「さらば」とて助けしが、かの南原の男、「さてさて、つひにひがんといふ物を見なんだに、今日初めて見たよ。ひがんが姿は、そのままの鼬ぢや」と。
一 山中にて衣更着(きさらき)中旬(ちうちゆん)に農夫(のうふ)二人つれ たち出一人は山の北原(きたはら)一人は南原(みなみはら)一町斗を へたて畠(はた)をうちけるか南原にいたち一つは しり出たり見付しを幸(さいはい)やにはに棒(ほう)をふりあけ うちころさんとしけるを北原よりやれひかん しやにをけひらに彼岸(ひかん)そたすけよとよ ばはるさらはとてたすけしか彼南原の男/n4-36l
さてさてつゐにひかんといふ物を見なんた にけふはじめて見たよひかんかすかたは其 ままのいたちしやと/n4-37r