醒睡笑 巻3 不文字
ある侍、中務(なかづかさ)になられたといふ時、百姓ども祝儀とて、料足(れうそく)十疋づつつなぎ集め、礼に持ち出でしを、また二十日ばかり後、訴訟のむねありて、中務に参る。門の傍らに並びゐて聞きければ、客人のわたり候ふが、小姓を呼び出だし、「中書(ちうしよ)1)は内に御入りあるや」と問はれしを、百姓目まぜし、ささやき言ふ、「中務が、ほどもなきに中書になられたは。南無三宝、また百出でいて、つくばはうずよ」と。
一 ある侍中務(なかつかさ)になられたといふ時百姓共祝義 とて料足(れうそく)十疋つつつなきあつめ礼に持出しを/n3-14r
又廿日はかり後訴訟のむねありて中務に参 る門の傍(かたはら)にならびゐて聞けれは客人(きやくしん)のわ たり候か小姓をよひ出し中書(ちうしよ)は内に御入ある やととはれしを百姓目まぜしささやきいふ中 務かほともなきに中書になられたは南無 三宝又百出いてつくばはうずよと/n3-14l