醒睡笑 巻3 文字知り顔
脈とては浮中沈(ふちうちん)をも弁ぜず、七表(しちへう)・八裏(はちり)・九道(くだう)二十四の名をさへ知らぬほどの医者あり。
脈を取りて後、病者に問ふ、「胸は痛む心ありや」。「なかなかあり」。「さうであらう、脈にさう候ふ。さて、足は冷ゆることありや」。「いや、温かな」。「さうであらう、脈にさうある。頭痛ありや」。「いや、なし」。「さうであらう。脈にあうた」と。この作法にても、お医師(くすし)様ではある。
病人となりて薬を申しうけんは、こはものぢやの1)。
一 脈とては浮中沈(ふちうらん)をも弁(べん)ぜす七表八裏九 道廿四の名をさへしらぬほどの医者あり脈(みやく)を とりて後(のち)病者にとふ胸はいたむ心ありや 中々あり左右てあらふ脈に左右候扨足は ひゆる事ありやいやあたたかな左右てあらふ/n3-10r
脈に左右ある頭痛(づつう)有やいやなし左右てあ らう脈にあふたと此作法にてもおくすしさまては ある 病人となりて薬を申うけんはこは物ぢやの/n3-10l