醒睡笑 巻2 吝太郎(しはたらう)
伊勢の桑名に、喜蔵庵(きざうあん)とて、いかにもしはい坊主のありし。たまさかに賓客の来たれり。対面の後、眠蔵(めんざう)に入りて、再び出でず。客、不思議に思ひ、そこあたり尋ぬるついでに、眠蔵を見られたれば、脇差を抜き、百繋ぎたる銭縄の口にあててゐけり。「こは何事ぞ」と問はれしかば、「されば候ふよ。この百銭の口を切らうか、さらずは腹を切らうか、その思案をつかまつる」と申しあへり。
一 伊勢の桑名に喜蔵庵とていかにもしはい坊主 のありしたまさかに賓客の来たれり対面 の後眠蔵に入てふたたひいてず客不思議 におもひそこあたりたつぬるつゐてにめんさう を見られたれは脇指をぬき百つなきたる 銭縄の口にあててゐけりこは何事ぞととは れしかはされは候よ此百銭の口をきらふか さらすは腹をきらふか其しあんを仕ると申 あへり/n2-43r