醒睡笑 巻2 躻(うつけ)
思ふ同士(どち)四・五人いざないて清水1)へ詣でしが、茶屋に腰かけながら、ひたもの餅を食ふ。をりから、一人にはかに言ひ出だしけるは、「やれやれ頬(ほほ)がすくみ口の開かれぬ病(やまひ)が出たは」とて、頭(かうべ)を下げ、難儀なるさまなりしかば、人みな肝を消し、「こはいかなることぞ」とうかがひ見けるに、編笠(あみがさ)を着ながら餅を食はんとせしゆゑなり。編笠の緒(を)を解き、頬をさすりて、「いかがあるや」と問ふに、かの男、しばらく思案して、「秘事はまつげじや」と。
一 思ふとち四五人いさないて清水へまうてしか 茶屋に腰かけなからひたもの餅をくふおり/n2-33r
からひとり俄にいひ出しけるはやれやれほう かすくみ口のあかれぬやまひか出たはとてかう へをさけ難儀なるさまなりしかは人みな 肝をけしこはいかなる事そとうかかひ 見けるにあみかさをきなからもちをくはん とせし故也あみかさの緒をときほうをさす りていかかあるやととふに彼男しはらく思案 して秘事はまつけしやと/n2-33l