醒睡笑 巻2 躻(うつけ)
京の町にて、人あまた二階に遊びゐけるが、「目薬は、目薬は」といふ声を聞き、その座にありしうつとり、ふと立ち、「目医師(めくすし)殿」と呼び寄せ、「一さし、それがし申しうけう」と、上瞼(うはまぶた)下瞼を、わが手にて開き待ちけり。
目医師、「それまで届く目棒(めぼう)を持たぬ」。時に手を合はせ、「れうじ1)を申した」と。
一 京の町にて人あまた二階にあそびゐけるか 目薬は目薬はといふ声をきき其座にありし うつとりふとたち目くすし殿とよひよせ一 さしそれかし申うけふとうはまふたした まふたを我か手にてひらきまちけり目 くすしそれまてととく目ほうをもたぬ時に 手をあはせれうしを申たと/n2-31r