醒睡笑 巻2 躻(うつけ)
男子一人あり。親の弔ひとて、神子(みこ)を請じ口寄する時に、神子、「親人は鮒1)になり水に遊ぶぞ。心安く思へ」と。「さらば」とて、池を掘り鮒をたくさんに放し、毎日食を投げ、あはれむこと年久し。朋友より会ふたびに「汁にせよかし」と勧むれども、かつて許さず。
かかりしが、主人をうつけとみなし、あるとき押して鮒を捕り、汁にするさへ惜しきに、子に向ひ、「まづ汁を吸うてみよ」といふに、うけとり2)、「あつたら、親ぢや人に、しほがない」と申しごとは。
一 男子一人あり親の弔とて神子を請し口 よする時に神子親人は鯽になり水に あそふそ心安おもへとさらはとて池をほり ふなをたくさんにはなし毎日食を投あは れむ事年久し朋友よりあふ度に汁 にせよかしとすすむれともかつてゆるさすかか りしか主人をうつけと見なしあるとき をして鯽をとり汁にするさへおしきに 子にむかひまつ汁をすふてみよといふにかけ/n2-28l
とりあつたら親しや人にしほかないと申ことは/n2-29r