醒睡笑 巻2 名付け親方
いかにも文盲なる者の、さすが時々寺に出入りするあり。茶をもらひて飲むたよりに1)、「ずんぎり」といふ字は何と書き参らするぞや」。「直切と書く」と教ふる。「さらば、書いて給ふれ」と所望し、火燧袋(ひうちぶくろ)に入れて持ちぬ。
齢(よはひ)ふりて、頭(かしら)を剃り、みづから名を「道ずん」と呼ぶ。聞く人みな、「珍しや。つひに聞きたることもない」など言ふて、「『ずん』の字は」と問ふ。「直切(ずんぎり)のずんの字をさへ知らいで、物書きだてはおやめあれ」と、けつくに。
一 いかにももんまうなる者のさすか時々寺に 出入するあり茶をもらひてのむてよりに ずんぎりといふ字はなにと書まいらするそや 直切と書とをしふるさらはかいてたまふれ と所望し火燧袋にいれてもちぬ齢ふり/n2-8l
てかしらをそりみつから名を道ずんとよふ 聞人みなめつらしやつゐにききたることも ないなといふてすんの字はととふ直切のずん の字をさへしらいて物かきたてはおやめあれ とけつくに/n2-9r