醒睡笑 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの
春の始めの朝より、千秋万歳(せんずまんざい)とも、また鳥追(とりおひ)ともいふかや、家ごとを歩(あり)きて慶賀を歌ふに、「千町万町の鳥追が参つた」と言うて、ある門の内へ入らんとしければ、戸のわきに子を生みて人に恐るる犬ありしが、ふと向脛(むかすずね)をしたたか食らひけるまま、「あれたのしや」と言ふを、痛さに、「あらかなしや」と。
一 春の始の朝より千秋萬歳とも又鳥追(とりおい)とも いふかや家毎(いゑごと)をありきて慶賀をうたふに 千町万町の鳥追か参たといふてある門 の内へいらんとしけれは戸のわきに子をうみて 人におそるる犬ありしが不図(ふと)むかうすねを したたかくらひけるままあれたのしやといふ をいたさにあらかなしやと/n1-74l