醒睡笑 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの
ある者、正月二日の夜、夢に、思ひ寄らずわが身に癩瘡(らいさう)出で来たる体(てい)を見、目覚め、つくづく案ずるやう、「かれをば『物よし』といふなれば、仕合はせ、何はにもの良からう端かや」と。
その分にてよかりしを、なほうたてしきことに思ひ続け、卜形(うらかた)する人のもとに行き、「過ぎにし夢を合はされよ1)と言へば、書物取り出だし、算(さん)など置き、あげくに、「過ぎし夜の夢のやう、さだかに語り給へ」と言ふ。「さることよ」と、ありのまま告げければ、卜人(ほくじん)つくづく思案する体にて、「のち、ただ養生を召されよ。生身(いきみ)ぢやほどに、ほんはあるまい」と判じける。
一 ある者正月二日の夜夢におもひよらす 我身に癩瘡(らいさう)いてきたるていを見目さめ つくつくあんするやうかれをは物よしといふなれは/n1-68l
仕合なにはに物よからふはしかやとその分にて よかりしをなをうたてしき事におもひつつ けうらかたする人のもとに行過にし夢をには されよといへは書物取出し算などをきあ けくに過し夜の夢のやうさだかにかたり 給へといふさる事よとありのままつけけ れは卜人(ほくちん)つくつく思案する体にてのちた たやうじやうをめされよいき身しやほとにほん はあるまいとはんしける/n1-69r