醒睡笑 巻1 鈍副子
研屋(とぎや)に、ある小名の刀をあつらへ、ほどふりて後、宿を問ひ寄られければ、「お目にかけん」と持ち出でたり。さつと抜き、見る見る、「さてもあら下手や。あたら一腰(ひとこし)を捨てたよ」と腹立(ふくりふ)し、小姓に渡さる。
亭主、赤面しながら門(かど)送りして、かの袂(たもと)をひかへ、「殿様は私をさんざんに仰せ候ふが、下手がこれやうに大きなる家を持つものでござるかや」。
一 ときやにある小名(みやう)の刀(かたな)をあつらへ程ふり て後宿をとひよられけれはお目にかけん と持出たりさつとぬき見る見るさてもあ/n1-49l
ら下手やあたら一腰をすてたよと腹立し 小性にわたさる亭主赤面しなから門送し て彼(かの)袂(たもと)をひかへ殿様は私をさんさんに おほせ候か下手かこれやうに大なる家をもつ 物で御ざるかや/n1-50r