text:yomeiuji:uji140
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text:yomeiuji:uji140 [2014/04/17 14:07] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji140 [2019/08/12 17:03] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第140話(巻12・第4話)内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事 ====== | ====== 第140話(巻12・第4話)内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事 ====== | ||
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**内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事** | **内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事** | ||
- | 内記上人、寂心といふ人ありけり。道心堅固の人也。堂を造り、塔をたつる。最上の善根也とて、勧進せられけり。材木をば、播磨国に行てとられけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | ここに法師陰陽師、紙冠をきて祓するをみつけて、あはてて馬よりおりて走よりて、「なにわざし給、御房ぞ」ととへば、「祓し候也」といふ。「なにしに紙冠をば、したるぞ」ととへば、「祓戸の神達は法師をば忌給へば、祓する程、しばらくして侍也」といふに、上人声をあげて大に泣て、陰陽師に取懸れば、陰陽師、心えず仰天して、祓をしさして、「是はいかに」と云。祓せさする人も、あきれて居たり。 | + | 内記上人寂心((慶滋保胤))といふ人ありけり。道心堅固の人なり。「堂を造り塔を建つる、最上の善根なり」とて、勧進せられけり。材木をば播磨国に行きて取られけり。 |
- | 上人、冠を取て、引破て、泣事限なし。「いかにしりて御房は仏弟子と成て、『祓戸の神達にくみ給』といひて、如来の忌給事を破て、しばしも無間地獄の業をばつくり給ぞ。誠にかなしき事也。ただ寂心を殺せ」といひて、取付て泣事おびただし。陰陽師のいはく、「仰らるる事、尤道理也。世の過がたければ、さりとてはとて、かくのごとく仕也。しからずば、何わざをしてかは、妻子はやしなひ、我命をも、続はべ侍らん。道心なければ、上人にもならず。法師のかたちに侍れど、俗人のごとくなれば、後世の事いかがと、かなしく侍れど、世のならひにて侍れば、かやうに侍なり」といふ。上人の云やう「それはさもあれ、いかが三世如来の御首に冠をば着給。不幸にたへずして、か様の事し給はば、堂作らん料に、勧進しあつめたる物共を汝に与ん。一人菩提勧れば、堂寺造に勝れたる功徳也」といひて、弟子共をつかはして、材木とらんとて、勧進しあつめたる物を、みなはこびよせて、此陰陽師にとらせつ。 | + | ここに法師陰陽師、紙冠(かみかうぶり)を着て祓(はら)ひするを見付けて、慌てて馬より下りて、走り寄りて、「なにわざし給ふ、御房ぞ」と問へば、「祓ひし候ふなり」と言ふ。「何しに紙冠をばしたるぞ」と問へば、「祓戸(はらひど)の神たちは、法師をば忌み給へば、祓ひするほど、しばらくして侍るなり」と言ふに、上人、声を上げておほきに泣きて、陰陽師に取りかかれば、陰陽師、心得ず仰天して、祓ひをしさして、「これはいかに」と言ふ。祓ひせさする人も、あきれて居たり。 |
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+ | 上人、冠を取て、引き破りて、泣くことかぎりなし。「いかに知りて、御房は仏弟子となりて、『祓戸の神たち憎み給ふ』と言ひて、如来の忌み給ふことを破りて、しばしも無間地獄の業をば作り給ふぞ。まことに悲しきことなり。ただ寂心を殺せ」と言ひて、取り付きて泣くことおびたたし。 | ||
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+ | 陰陽師のいはく、「仰せらるること、もつとも道理なり。世の過ぎがたければ、さりとてはとて、かくのごとくつかまつるなり。しからずは、何わざをしてかは妻子は養ひ、わが命をも続ぎ侍らん。道心なければ、上人にもならず。法師の形に侍れど、俗人のごとくなれば、後世のこといかがと、悲しく侍れど、世の習ひにて侍れば、かやうに侍るなり」と言ふ。上人の言ふやう、「それはさもあれ、いかが、三世如来の御首に冠をば着給ふ。不幸に耐へずして、かやうのことし給はば、堂作らん料に勧進し集めたるものどもを、なんぢに与へん。一人菩提勧むれば、堂寺造るにすぐれたる功徳なり」と言ひて、弟子どもをつかはして、材木とらんとて勧進し集めたる物を、みな運び寄せて、この陰陽師に取らせつ。 | ||
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+ | さて、わが身は京に上り給ひにけり。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 内記上人寂心といふ人ありけり道心堅固の人也堂を造り | ||
+ | 塔をたつる最上の善根也とて勧進せられけり材木をは播磨国 | ||
+ | に行てとられけりここに法師陰陽師紙冠をきて祓するをみつけて/下52ウy358 | ||
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+ | あはてて馬よりおりて走よりてなにわさし給御房そととへは | ||
+ | 祓し候也といふなにしに紙冠をはしたるそととへは祓戸の神達は | ||
+ | 法師をは忌給へは祓する程しはらくして侍也といふに上人声を | ||
+ | あけて大に泣て陰陽師に取懸れは陰陽師心えす仰天して | ||
+ | 祓をしさして是はいかにと云祓せさする人もあきれて居たり | ||
+ | 上人冠を取て引破て泣事限なしいかにしりて御房は仏弟 | ||
+ | 子と成て祓戸の神達にくみ給といひて如来の忌給事を破 | ||
+ | てしはしも無間地獄の業をはつくり給そ誠にかなしき事也たた寂 | ||
+ | 心を殺せといひて取付て泣事おひたたし陰陽師のいはく仰らるる | ||
+ | 事尤道理也世の過かたけれはさりとてはとてかくのことく仕也 | ||
+ | しからすは何わさをしてかは妻子はやしなひ我命をも続 | ||
+ | 侍らん道心なけれは上人にもならす法師のかたちに侍れと俗人の | ||
+ | ことくなれは後世の事いかかとかなしく侍れと世のならひにて侍/下53オy359 | ||
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+ | れはかやうに侍なりといふ上人の云やうそれはさもあれいかか三 | ||
+ | 世如来の御首に冠をは着給不幸にたへすしてか様の事 | ||
+ | し給はは堂作らん料に勧進しあつめたる物共を汝に与ん | ||
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- | さて、我身は京に上給にけり。 |
text/yomeiuji/uji140.1397711224.txt.gz · 最終更新: 2014/04/17 14:07 by Satoshi Nakagawa