text:yomeiuji:uji134
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text:yomeiuji:uji134 [2017/09/09 19:11] – [第134話(巻11・第10話)日蔵上人、吉野山にて鬼に逢ふ事] Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji134 [2019/08/04 13:01] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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宇治拾遺物語 | 宇治拾遺物語 | ||
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====== 第134話(巻11・第10話)日蔵上人、吉野山にて鬼に逢ふ事 ====== | ====== 第134話(巻11・第10話)日蔵上人、吉野山にて鬼に逢ふ事 ====== | ||
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**日蔵上人、吉野山にて鬼に逢ふ事** | **日蔵上人、吉野山にて鬼に逢ふ事** | ||
- | 昔、吉野山の日蔵のきみ、芳野の奥におこなひありき給けるに、たけ七尺ばかりの鬼、身の色は紺青の色にて、髪は火のごとくに赤く、くびほそく、むな骨はことにさし出て、いらめき、腹ふくれて、脛はほそくありけるが、このおこなひ人にあひて、手をつかねてなく事かぎりなし。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
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+ | 昔、吉野山の日蔵の君、吉野の奥に行ひ歩(あり)き給ひけるに、たけ七尺ばかりの鬼、身の色は紺青(こんじやう)の色にて、髪は火のごとくに赤く、首細く、胸骨(むなぼね)はことにさし出でて、いらめき、腹膨れて、脛は細くありけるが、この行ひ人に会ひて、手をつかねて泣くことかぎりなし。 | ||
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+ | 「これは何事する鬼ぞ」と問へば、この鬼、涙にむせびながら申すやう、「われは、この四・五百年を過ぎての昔、人にて候ひしが、人のために恨みを残して、今はかかる鬼の身となりて候ふ。さて、その敵(かたき)をば、思ひのごとくに取り殺してき。それが子・孫・彦(ひこ)・やしは子((玄孫))に至るまで、残りなく取り殺し果てて、今は殺すべき者なくなりぬ。されば、なほ、彼らが生まれ変り、まかる後までも知りて、取り殺さんと思ひ候ふに、次々の生まれ所も知らねば、取り殺すべきやうなし。瞋恚(しんい)の炎は同じやうに燃ゆれども、敵の子孫は絶え果てたり。ただわれ一人、尽きせぬ瞋恚の炎に燃え焦がれて、せんかたなき苦をのみ受け侍り。かかる心を起こさざらましかば、極楽・天上にも生まれなまし。ことに恨みをとどめて、かかる身となりて、無量億劫の苦を受けんとすることの、せんかたなく悲しく候ふ。人のために恨を残すは、しかしながら、わが身のためにてこそありけれ。敵の子孫は尽き果てぬ。わが命は極まりもなし。かねてこのやうを知らましかば、かかる恨みをば残さざらまし」と言ひ続けて、涙を流して泣くことかぎりなし。そのあいだに、頭(かうべ)より炎やうやう燃え出でけり。さて、山の奥ざまへ歩み入りけり。 | ||
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+ | さて日蔵の君、「あはれ」と思ひて、それがために、さまざまの罪滅ぶべきことどもをし給ひけるとか。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 昔吉野山の日蔵のきみ芳野の奥におこなひありき | ||
+ | 給けるにたけ七尺はかりの鬼身の色は紺青の色にて髪は火の | ||
+ | ことくに赤くくひほそくむな骨はことにさし出ていらめき腹ふくれ | ||
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- | 「これは何事する鬼ぞ」ととへば、此鬼、泪にむせびなくやう、「我はこの四五百年を過てのむかし、人にて候しが、人のために恨をのこして、今はかかる鬼の身となりて候。さて、そのかたきをば、思のごとくにとり殺してき。それが子、孫、彦、やしは子にいたるまで、のこりなくとりころしはてて、今はころすべき物なくなりぬ。されば、なをかれらがむまれかはりまかる後までもしりて、とりころさんと思候に、つぎつぎのむまれ所もしらねば、とりころすべきやうなし。瞋恚のほのをはおなじやうにもゆれども、敵の子孫はたえはてたり。ただ、我独つきせぬ瞋恚のほのをにもへこがれて、せんかたなき苦をのみ受侍り。かかる心をおこさざらましかば、極楽天上にも生れなまし。ことに、うらみをとどめて、かかる身となりて、無量億劫の苦をうけんとする事のせんかたなく、かなしく候。人の為に恨をのこすは、しかしながら我身のためにてこそありけれ。敵の子孫はつきはてぬ。我命はきはまりもなし。かねて、此やうをしらましかば、かかる恨をばのこさざらまし」といひつづけて、泪をながしてなく事限なし。そのあいだに、かうべよりほのをやうやうもえ出けり。さて、山のおくざまへ、あゆみ入けり。 | + | |
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+ | てもしりてとりころさんと思候につきつきのむまれ所もしら | ||
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- | さて、日蔵のきみ、「あはれ」と思て、それがために、さまざまのつみほろぶべき事どもをし給けるとか。 | + | きはまりもなしかねて此やうをしらましかはかかる恨をはの |
+ | こささらましといひつつけて泪をなかしてなく事限 | ||
+ | なしそのあいたにかうへよりほのをやうやうもえ出けりさて | ||
+ | 山のおくさまへあゆみ入けりさて日蔵のきみあはれと思 | ||
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text/yomeiuji/uji134.1504951913.txt.gz · 最終更新: 2017/09/09 19:11 by Satoshi Nakagawa