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text:yomeiuji:uji112 [2015/05/24 18:06]
Satoshi Nakagawa [第112話(巻9・第7話)大安寺別当の女に嫁する男、夢を見る事]
text:yomeiuji:uji112 [2019/02/24 11:22] (現在)
Satoshi Nakagawa
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 **大安寺別当の女に嫁する男、夢を見る事** **大安寺別当の女に嫁する男、夢を見る事**
  
-今はむかし、奈良の大安寺の別当なりける僧の女のもとに、蔵人なりける人、しのびてかよふほどに、せめて思はしかりければ、時々は昼もとまりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-ある時ひるねしたりける夢に、俄に此家に、上下の、とよみてける「いなる事やらん」とあやしければ立出みれば、うとの僧、妻の尼公よ始て、ありとある人、みな大きなる土器をささげてなきり。「いかなれば、此からけをささげてなくやらん」とおひて、よくよくみれば、銅の湯を土器ごにもれり。+今は昔奈良の大安寺の別当なりける女(むすめ)のもとに、人なける忍びてよふほどにせめ思はりければ、時々もとまりけり。
  
-はりて、鬼の飲せんにだにも、むべくもなき湯を、心とむなりけり。からくしててつれば、ひそへてむものもあり。下らういたるまでも、まぬものなし。我かたはらにふしたる君を、女房きてよぶ+ある時、昼寝したりける夢に、にはかにこの家の内に、上下の人、とよみて泣きけるを、「いかなることやらん」と怪しければ、立ち出でてみれば、舅(しうと)の僧、妻の尼公より始めて、ありとある人、みな大きなる土器(かはらけ)をささげて泣きけり。「いかなれば、この土器をささげて泣くやらん」と思ひて、よくよく見れば、銅(あかがね)の湯を土器ごとに盛れり。うちはりて、鬼の飲せんにだにも、むべくもなき湯を、心とむなりけり。からくしててつれば、またひそへてむものもあり。下るまでも、まぬなし。
  
-きてぬるを、おぼつかなさに、又みれば、この女も大なる銀の土器に、銅の湯を一土器入て、女房らすれば、この女りて、ほそくらうたげなる声をさしげて、む。目鼻より煙くゆりづ。「あさまし」と、みてたてる、「又、ま人まらせよ」と、いひて土器をだいにすて、女房たり。「もかかるまんずるか」とおもふに、あさましくてまどふと思ふに夢めぬ。+わが傍らに臥したる君を、女房来て呼ぶ。起きてぬるを、おぼつかなさに、また見れば、この女も大なる銀の土器(かはらけ)に、銅の湯を一土器入(ひとかはらけ)て、女房らすれば、この女りて、くらうたげなる声をさしげて、む。目鼻より煙くゆりづ。「あさまし」と見ててるほどに、また、「客(らうど)に参らせよ」とひて土器をにすて、女房たり。「われもかかるものまんずるか」とふに、あさましくてまどふと思ふほどに夢めぬ。
  
-おどろきてれば、女房くい物をもてきたりしうとのかたにも物くふをとしてののしる。「寺の物をくふにこそあるらめそれかくはみゆるなりとゆゆしく心うくおえてむすめの思はしさもうせぬ+おどろきてれば、女房食ひ物を持て来たり。舅の方にも物食ふ音してののしる。「寺の物を食ふにこそあるらめ。それがかは見ゆるなり」と、ゆゆしく心憂く思えて、女の思はしさも憂せぬ。 
 + 
 +さて、心地の悪しきよしをひて、ものも食はずして出でぬ。その後は、つひにかしこへは行かずなりにけり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし奈良の大安寺の別当なりける僧の女のもとに蔵人 
 +  なりける人しのひてかよふほとにせめて思はしかりけれは時々は 
 +  昼もとまりけりある時ひるねしたりける夢に俄に此家の 
 +  内に上下の人とよみてなきけるをいかなる事やらんとあやし 
 +  けれは立出てみれはしうとの僧妻の尼公より始てありとある 
 +  人みな大きなる土器をささけてなきけりいかなれは此かはらけ 
 +  をささけてなくやらんとおもひてよくよくみれは銅の湯を土器 
 +  ことにもれり打はりて鬼の飲せんにたにものむへくもなき 
 +  湯を心となくなくのむなりけりからくしてのみはてつれは又こひ 
 +  そへてのむものもあり下らうにいたるまてものまぬものなし我かた 
 +  はらにふしたる君を女房きてよふおきてゐぬるをおほつかなさに/下19オy291 
 + 
 +  又みれはこの女も大なる銀の土器に銅の湯を一土器入て女房 
 +  とらすれはこの女とりてほそくらうたけなる声をさしあけ 
 +  てなくなくのむ目鼻より煙くゆりいつあさましとみてたてる 
 +  程に又まら人にまいらせよといひて土器をたいにすへて女房もて 
 +  きたり我もかかる物をのまんするかとおふにあさましくまとふ 
 +  と思ふ程に夢さめぬおとろきてみれは女房くい物をもて 
 +  ​きたりしうとのかたにも物くふをとしてののしる寺の物をくふに 
 +  ​こそあるらめそれかくはみゆるなりとゆゆしく心うくおえて 
 +  ​むすめの思はしさもうせぬさて心ちのあしきよしをいひてものも 
 +  くはすして出ぬ其後はつゐにかしこへはゆかすなりにけり/下19ウy292
  
-さて、心ちのあしきよしをいひて、ものもくはずして出ぬ。其後はつゐにかしこへはゆかずなりにけり。 


text/yomeiuji/uji112.txt · 最終更新: 2019/02/24 11:22 by Satoshi Nakagawa