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text:yomeiuji:uji094 [2014/04/12 01:12] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji094 [2018/08/11 16:54] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第94話(巻7・第3話)三条中納言、水飯の事 ====== ====== 第94話(巻7・第3話)三条中納言、水飯の事 ======
  
 **三条中納言水飯事** **三条中納言水飯事**
 +
 **三条中納言、水飯の事** **三条中納言、水飯の事**
  
-これも今はむかし、三条中納言といふ人ありけり。三条右大臣の御子なり。才かしこくて、もろこしの、この世の、みなり給へり。心ばへかしこく、きもふとく、しからだちてなんおはしける。笙のふえをなん、きはめて吹給ける。く大にふとりてなんおはしける。+===== 校訂本文 ===== 
 + 
 +これも今は、三条中納言((藤原朝成))といふ人ありけり。三条右大臣((藤原定方))の御子なり。才かしこくて、唐土(もろこし)こと、この世のこと、みなり給へり。心ばへかしこく、肝(きも)太く、しからだちてなんおはしける。笙のをなん、きはめて吹ける。たけ高く大りてなんおはしける。 
 + 
 +太りのあまり、せめて苦しきまで肥え給ひければ、医師重秀(くすししげひで)を呼びて、「かくいみじう太るをば、いかがせんとする。立ち居などするが、身の重く、いみじう苦しきなり」との給へば、重秀、申すやう、「冬は湯漬け、夏は水漬けにて物を召すべきなり」と申しけり。 
 + 
 +そのままに召しけれど、同じやうに肥え太り給ひければ、せんかたなくて、また重秀を召して、「言ひしままにすれど、そのしるしもなし。水飯食ひて見せん」とのたまひて、をのこども召すに、侍(さぶらひ)一人参りたれば、「例のやうに水飯して持(も)て来(こ)」と言はれければ、しばしばかりありて、御台持て参るを見れば、御台、片具(かたよろひ)持て来て、御前に据ゑつ。御台に箸の台ばかり据ゑたり。 
 + 
 +続きて御盤ささげて参る。御まかないの、台に据うるを見れば、中の御盤に、白き干瓜、三寸ばかりに切りて、十ばかり盛りたり。また、鮨鮎(すしあゆ)のおせぐくに広らかなるが、尻頭(しりかしら)ばかりを押して、三十ばかり盛りたり。 
 + 
 +大きなる鋺(かなまり)を具したり。みな御台に据ゑたり。いま一人の侍、大きなる銀の提(ひさげ)に銀の匙(かひ)を立てて、重たげに持て参りたり。 
 + 
 +鋺を給ひたれば、匙(かひ)に御物をすくひつつ、高やかに盛り上げて、そばに水を少し入れて参らせたり。殿、台を引き寄せ給ひて、鋺を取らせ給へるに、さばかり大におはする殿の御手に、「大きなる鋺かな」と見ゆるは、けしうはあらぬほどなるべし
  
-ふとのあま、せめくるしきで肥給ければ、ししげひでよびて、「かくいみじうとるを、いがせん。立居なするが身のをくいじうくるしき」と給ば、重秀申やう「冬は湯づけ、夏は水漬にて物をめすべきなり」と申けり+干瓜を三切ばかり食ひ切りて、五・六ばかりいりぬ。次に鮎を二切りかりに食ひ切て五つ六つばかり、やらかに参りぬ。次に水飯引き寄せて、二度(たたび)ばかり箸を回し給ふみな失せぬ。「また」とて、さしはす。さて二・三度に、提(ひさげ)の物みなになれば、また入れ持て参る
  
-そのままにめしけれどおなじやうにへふとり給けば、せんかたなくて、又重秀めして、「いひしままにすれど、そのしるしもなし。水飯食てみせん」の給てこどもめすに、さひ一人まいたれば、「例のやう水飯してもてこ」いはれければ、しばし斗ありて、御台もまいるをみれば、御だい、かたよろひもてきて御前すへつ。みだいに箸のだいばかりすへたり。+重秀、これをて、「水飯を役召すともぢやう召さば、さらに御太治るべきあらず」とて、逃げり。
  
-つづきて御盤さげてまる。御すふるをみれば、中の御盤に、しろき干瓜三寸ばかりに切、十斗もりたり。又、すあゆのおせくぐにひろらかなが、しりかしらばかりををして、卅斗もりたり+れば、いよよ相撲(すひ)やうにてぞおはる。
  
-大なるかなまりをぐしたり。みな御台にすへたり。いま一人の侍、大なる銀の提に銀のかいをたてて、をもたげにもてまいりたり。+===== 翻刻 =====
  
-かなたれば、いに御ものをすくひつつ、高やかにりあ、そばに水をまいらせたり。殿、だいひきせ給かなまりをとらせへる、さばかにおはする殿御手に、「大ななまりかな」みゆるけしはあらぬほどなべし。+  これも今はむし三条中納言といふ人ありけり三条右大臣の 
 +  御子なり才かしこくてもろこしの事この世の事みなしり 
 +  へり心はへしこくきふとくをしからたちてなんおはしける 
 +  笙ふえなんきはめて吹給ける長たく大ふとてなん 
 +  おはしけるふとりのまりせめくるしきまて肥給けれはく 
 +  すししけひてをよてかくいみしうふとるをはいかかせんとする 
 +  立居とするか身のもくいみしうくるしきなりは重 
 +  秀申やう冬は湯つけ夏は水漬て物をめすへきなと申 
 +  けりそのままめしけれとなしやうにこへふとり給けれせんかた 
 +  なくて又重秀をめしていひしままにれとそしもし水 
 +  飯食てみせんとの給ておのこともめすにさふらひ一人たれは例 
 +  のやうに水飯してもてこ」れはしはし斗りて御台もて 
 +  まいをみれは御たいかたよろひもてきて御前にすへつ御たいに/103ウy210
  
-ほしうりを二きり斗に食切て五六斗やすらかにまいりぬ次に水飯を引よせて二た斗はしをまはし給ふとみる程におものみなうせぬ。「とてさし給はす+  箸のたいはかりすへたりつつきて御盤ささけてまいる御まかな 
 +  いの台にすふるをみれは中の御盤にしろき干瓜三寸はかりに 
 +  切て十斗もりたり又すしあゆのおせくくにひろらかなるかし 
 +  りかしらはかりををして卅斗もりたり大なるかなまりをくし 
 +  たりみな御台にすへたりいま一人の侍大なる銀の提に 
 +  銀のかいをたててをもたけにもてまいりたり金鞠を給たれ 
 +  はかいに御ものをすくひつつ高やかにもりあけてそはに水を 
 +  すこし入てまいらせたり殿たいをひきよせ給てかなまりをとらせ 
 +  給へるにさはかり大におはする殿の御手に大なるかなまりかなと 
 +  みゆるはけしうはあらぬほとなるへしほしうりを三きり斗くひ 
 +  きりて五六はかりまいりぬ次に鮎を二きり斗に食切て五六 
 +  斗やすらかにまいりぬ次に水飯を引よせて二た斗はしをまはし給ふ 
 +  とみる程におものみなうせぬ又とてさし給はすさて二三度に/104オy211
  
-さて二三度にひさげに物みなになれば、提に入てもてまいる重秀これをみて、「水飯をやくとめすともこのやうにめさば、さらに御ふとりなをるきにあらず」とて逃ていにけり+  ひさけの物みなになれ又提に入てもてまいる重秀これ 
 +  をみて水飯をやくとめすともこのやうにめささらに 
 +  御ふとりなをるきにあらとて逃ていにけりされはいよいよ相 
 +  撲なとのやうにてそおはしける/104ウy212
  
-されば、いよいよ相撲などのやうにてぞおはしける。 
text/yomeiuji/uji094.1397232765.txt.gz · 最終更新: 2014/04/12 01:12 by Satoshi Nakagawa