text:yomeiuji:uji088
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text:yomeiuji:uji088 [2014/04/10 19:43] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji088 [2018/07/17 18:46] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第88話(巻6・第6話)賀茂社より、御弊紙米等給ふ事 ====== | ====== 第88話(巻6・第6話)賀茂社より、御弊紙米等給ふ事 ====== | ||
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**賀茂社より、御弊紙米等給ふ事** | **賀茂社より、御弊紙米等給ふ事** | ||
- | 今はむかし、比叡山に僧ありけり。いとまづしかりけるが、鞍馬に七日まいりけり。「夢などやみゆる」とてまいりけれど、見えざりければ「今七日」とてまいれども、猶みえねば、七日をのべのべして、百日まいりけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | その百日といふ夜の夢に、「我はえしらず。清水へまいれ」と仰らるるとみければ、明日日より、又、清水へ百日まいるに、「又我はえこそしらね。賀茂にまいりて申せ」と夢にみてければ、又賀茂にまいる。七日と思へども、「例の夢みん、例の夢みん」とまいるほどに、百日といふ夜の夢に、「わ僧、かくまいる。いとほしければ、御幣紙、うちまきの米ほどの物たしかにとらせん」と仰らるるとみて、うちおどろきたる心ちいと心うくあはれにかなし。 | + | 今は昔、比叡山((延暦寺))に僧ありけり。いと貧しかりけるが、鞍馬((鞍馬寺))に七日参りけり。「夢などや見ゆる」とて参りけれど、見えざりければ「今七日」とて参れども、なほ見えねば、七日を延べ延べして、百日参りけり。 |
- | 所々まいりあるきつるに、ありありして、「かく仰らるるよ。うちまきのかはり斗給はりて、なにかはせん。我山へかへりのぼらむも、人目はづかし。賀茂川にやおち入りなまし」など思へど、又、さすがに身もえなげず。「いかやうにはからはせ給べきにか」とゆかしきかたもあれば、もとの山の坊に帰てゐたる程に、しりたる所より、「物申候はん」といふ人あり。「たそ」とてみれば、白き長櫃をになひて、ゑんにをきて帰ぬ。いとあやしく思て使を尋れど、大かたなし。これをあけてみれば、しろき米と、よき紙とを一長櫃入たり。 | + | その百日といふ夜の夢に、「われはえ知らず。清水((清水寺))へ参れ」と仰せらるると見ければ、明日日より、また清水へ百日参るに、また、「われはえこそ知らね。賀茂((賀茂神社))に参りて申せ」と夢に見てければ、また賀茂に参る。 |
- | 「これはみし夢のままなりけり。さりともとこそ思つれ、こればかりを誠にたびたる」といと心うく思へど、「いかがはせん」とて、此米をよろづにつかふに、ただおなじおほさにてつくる事なし。紙もおなじごとつかへど、うする事なくていとべちにきらきらしからねど、いとたのしき法師になりてぞありける。 | + | 七日と思へども、「例の夢見ん、例の夢見ん」と参るほどに、百日といふ夜の夢に、「わ僧がかく参る。いとほしければ、御幣紙(ごへいがみ)・打撒(うちまき)の米ほどの物、たしかに取らせん」と仰らるると見て、うちおどろきたる心地、いと心憂く、あはれにかなし。 |
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+ | 「所々参り歩(あり)きつるに、ありありて、かく仰せらるるよ。打撒のかはりばかり給はりて、何にかはせん。わが山へ帰り登らむも、人目恥かし。賀茂川にや落ち入りなまし」など思へど、また、さすがに身もえ投げず。 | ||
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+ | 「いかやうに、はからはせ給ふべきにか」と、ゆかしきかたもあれば、もとの山の坊に帰りて居たるほどに、知りたる所より、「もの申し候はん」と言ふ人あり。「誰(た)そ」とて見れば、白き長櫃(ながびつ)を担(にな)ひて、縁(ゑん)に置きて帰りぬ。いとあやしく思ひて、使を尋ぬれど、おほかたなし。 | ||
+ | |||
+ | これを開けて見れば、白き米と、よき紙とを、一長櫃入りたり。「これは見し夢のままなりけり。『さりとも』とこそ思ひつれ、こればかりをまことに賜びたる」と、いと心憂く思へど、「いかがはせん」とて、この米をよろづに使ふに、ただ同じ多さにて、尽くることなし。紙も同じごと使へど、失することなくて、いと別(べち)にきらきらしからねど、いとたのしき法師になりてぞありける。 | ||
+ | |||
+ | なほ心長く、もの詣ではすべきなり。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 今はむかし比叡山に僧ありけりいとまつしかりけるか鞍馬に | ||
+ | 七日まいりけり夢なとやみゆるとてまいりけれと見えさり | ||
+ | けれは今七日とてまいれとも猶みえねは七日をのへのへして | ||
+ | 百日まいりけりその百日といふ夜の夢に我はえしらす | ||
+ | 清水へまいれと仰らるるとみけれは明日日より又清水へ | ||
+ | 百日まいるに又我はえこそしらね賀茂にまいりて申せと | ||
+ | 夢にみてけれは又賀茂にまいる七日と思へとも例の夢 | ||
+ | みん例の夢みんとまいるほとに百日といふ夜の夢にわ僧かかくまいる | ||
+ | いとおしけれは御幣紙うちまきの米ほとの物たしかにとら | ||
+ | せんと仰らるるとみてうちおとろきたる心ちいと心うくあはれに/92ウy188 | ||
+ | |||
+ | かなし所々まいりありきつるにありありてかく仰らるるようち | ||
+ | まきのかはり斗給はりてなににかはせん我山へかへりのほら | ||
+ | むも人目はつかし賀茂川にやおち入りなましなと思へと | ||
+ | 又さすかに身もえなけすいかやうにはからはせ給へきに | ||
+ | かとゆかしきかたもあれはもとの山の坊に帰てゐたる程に | ||
+ | しりたる所より物申候はんといふ人ありたそとてみれは | ||
+ | 白き長櫃をになひてゑんにをきて帰ぬいとあやしく思 | ||
+ | て使を尋れと大かたなしこれをあけてみれはしろき米 | ||
+ | とよき紙とを一長櫃入たりこれはみし夢のままなりけり | ||
+ | さりともとこそ思つれこれはかりを誠にたひたるといと心 | ||
+ | うく思へといかかはせんとて此米をよろつにつかふにたたおなし | ||
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- | 猶心ながく物まうではすべき也。 |
text/yomeiuji/uji088.txt · 最終更新: 2018/07/17 18:46 by Satoshi Nakagawa