ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:yomeiuji:uji055

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン両方とも次のリビジョン
text:yomeiuji:uji055 [2014/09/30 19:06] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji055 [2015/02/11 22:33] – [第55話(巻4・第3話)薬師寺の別当の事] Satoshi Nakagawa
行 10: 行 10:
 年老、やまひして、死ぬるきざみになりて、念仏してきえいらんとす。無下にかぎりとみゆるほどに、よろしうなりて、弟子をよびていふやう、「みるやうに念仏は他念なく申てしぬれば、『極楽のむかへいますらん』とまたるるに、極楽のむかへはみえずして、火の車をよす。『こはなんぞ。かくはおもはず。なにの罪によりて、地獄の迎へはきたるぞ』といひつれば、車につきたる鬼どものいふやう『此寺の物を一とせ五斗かりて、いまだ返さねば、其罪によりてこのむかへはえたる也』といひつれば、我いひつるは、『さばかりの罪にては、ぢごくに落べきやうなし。その物を返してん』といへば、火車をよせて待なり。されば、とくとく一石ずきやうにせよ」といひければ、弟子ども、手まどひをしていふままに、誦経にしつ。その鐘のこゑのするおり火車帰ぬ。 年老、やまひして、死ぬるきざみになりて、念仏してきえいらんとす。無下にかぎりとみゆるほどに、よろしうなりて、弟子をよびていふやう、「みるやうに念仏は他念なく申てしぬれば、『極楽のむかへいますらん』とまたるるに、極楽のむかへはみえずして、火の車をよす。『こはなんぞ。かくはおもはず。なにの罪によりて、地獄の迎へはきたるぞ』といひつれば、車につきたる鬼どものいふやう『此寺の物を一とせ五斗かりて、いまだ返さねば、其罪によりてこのむかへはえたる也』といひつれば、我いひつるは、『さばかりの罪にては、ぢごくに落べきやうなし。その物を返してん』といへば、火車をよせて待なり。されば、とくとく一石ずきやうにせよ」といひければ、弟子ども、手まどひをしていふままに、誦経にしつ。その鐘のこゑのするおり火車帰ぬ。
  
-さて、とばかりありて、「火の車帰て、極楽のむかへ、いまなんおはする」とて、手をすりて悦つつおはりにけり。+さて、とばかりありて、「火の車帰て、極楽のむかへ、なんおはする」とて、手をすりて悦つつおはりにけり。
  
 その坊は薬師寺の大門の北の脇にある坊なり。いまだそのかたうせずしてあり。さばかり程の物つかひたるにだに、火車むかへにきたる。まして寺の物を心のままにつかひたる、諸寺の別当のぢごくのむかへこそ、おもひやらるれ。 その坊は薬師寺の大門の北の脇にある坊なり。いまだそのかたうせずしてあり。さばかり程の物つかひたるにだに、火車むかへにきたる。まして寺の物を心のままにつかひたる、諸寺の別当のぢごくのむかへこそ、おもひやらるれ。
text/yomeiuji/uji055.txt · 最終更新: 2018/03/08 21:24 by Satoshi Nakagawa