text:yomeiuji:uji054
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text:yomeiuji:uji054 [2014/04/09 03:34] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji054 [2018/03/08 21:23] (現在) – [第54話(巻4・第2話)佐渡国に金有る事] Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第54話(巻4・第2話)佐渡国に金有る事 ====== | ====== 第54話(巻4・第2話)佐渡国に金有る事 ====== | ||
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**佐渡国に金有る事** | **佐渡国に金有る事** | ||
- | 能登国には、鉄といふものの、すがねといふ程なるを取て、守にとらするもの六十人ぞ、あんなる。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | さね房といふ守の任に、くろがねとり、六十人の長なりけるものの、「佐渡国にこそ、こがねの花さきたる所ありしか」と人にいひけるを、守つたへききて、その男を守よびとりて、物とらせなどして、すかし問ければ、「さどの国は、まことの金の侍なり。候し所をみをきて侍なり」といへば、「さらば、いきてとりてきなんや」といへば「つかはさば、まかり候はん」といふ。「さらば、舟をいだしたてん」といふに「人をば給はり候はじ。ただ小舟一と、くひ物すこしとを給候て、まかりいたりて、もしやととりてまいらん」といへば「ただこれがいふにまかせて、人にもしらせず小舟一とくふべき物すこしとをとらせたりければ、それをみて佐渡国へわたりにけり。 | + | 能登国には、鉄(くろがね)といふものの、素鉄(すがね)といふほどなるを取りて、守に取らする者、六十人ぞあんなる。実房((藤原実房))といふ守の任に、鉄取り、六十人が長なりけるものの、「佐渡国にこそ、金(こがね)の花咲きたる所ありしか」と人に言ひけるを、守、伝へ聞きて、その男を、守、呼び取りて、物取らせなどして、すかし問ひければ、「佐渡の国は、まことの金の侍るなり。候ひし所を見置きて侍るなり」と言へば、「さらば、行きて取りて来なんや」と言へば、「遣はさば、まかり候はん」と言ふ。 |
- | 一月ばかりありて、うちわすれたるほどに、この男、ふときて守に目をみあわせたりければ、守、心えて、人づてにはとらで、みづから出合たりければ、袖うつしにくろばみたるさいでにつつみたる物をとらせたりければ、守、をもげにひきさげて、ふところにひき入て、かえり入にけり。 | + | 「さらば、舟を出だしたてん」と言ふに、「人をば給はり候はじ。ただ、小舟一つと、食ひ物少しとを給はり候ひて、まかり至りて、もしやと、取りて参らん」と言へば、ただ、これが言ふにまかせて、人にも知らせず、小舟一つと食ふべき物少しとを取らせたりければ、それを見て、佐渡国へ渡りにけり。 |
- | そののち、そのかねとりの男は、いづちともなくうせにけり。よろづに尋けれども、行方もしらずやみにけり。いかに思て失たりといふ事をしらず。 | + | 一月ばかりありて、うち忘れたるほどに、この男、ふと来て、守に目を見合はせたりければ、守、心得て、人づてには取らで、みづから出で合ひたりければ、袖移しに、黒ばみたるさいでに包みたる物を取らせたりければ、守、重げに引き下げて、懐(ふところ)に引き入れて、帰り入りにけり。 |
- | 「金のあり所を、とひ尋やすると、思けるにや」とぞ、うたがひける。その金は千両ばかりありけるとぞかたりつたへたる。 | + | その後、その金取りの男は、いづちともなく失せにけり。よろづに尋ねけれども、行方も知らず、やみにけり。いかに思ひて失せたりといふことを知らず。「『金のあり所を、問ひ尋ねやする』と思ひけるにや」とぞ疑ひける。その金は千両ばかりありけるとぞ、語り伝へたる。 |
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+ | かかれば、佐渡国には、金ありけるよしと、能登国の者ども、語りけるとぞ。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 能登国には鉄といふもののすかねといふ程なるを取て守に | ||
+ | とらするもの六十人そあんなるさね房といふ守の任にくろかね | ||
+ | とり六十人か長なりけるものの佐渡国にこそこかねの花 | ||
+ | さきたる所ありしかと人にいひけるを守つたへききてその | ||
+ | 男を守よひとりて物とらせなとしてすかし問けれはさとの | ||
+ | 国はまことの金の侍なり候し所をみをきて侍なりといへは | ||
+ | さらはいきてとりてきなんやといへはつかはさはまかり候はん | ||
+ | といふさらは舟をいたしたてんといふに人をは給はり候はし | ||
+ | たた小舟一とくひ物すこしとを給候てまかりいたりてもし | ||
+ | やととりてまいらんといへはたたこれかいふにまかせて人にも/61ウy126 | ||
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+ | しらせす小舟一とくふへき物すこしとをとらせたりけれは | ||
+ | それをみて佐渡国へわたりにけり一月はかりありてうち | ||
+ | わすれたるほとにこの男ふときて守に目をみあわせたりけれ | ||
+ | は守心えて人つてにはとらてみつから出合たりけれは袖 | ||
+ | うつしにくろはみたるさいてにつつみたる物をとらせたり | ||
+ | けれは守をもけにひきさけてふところにひき入てかえり入に | ||
+ | けりそののちそのかねとりの男はいつちともなくうせに | ||
+ | けりよろつに尋けれとも行方もしらすやみにけりいかに | ||
+ | 思て失たりといふ事をしらす金のあり所をとひ尋やする | ||
+ | と思けるにやとそうたかひけるその金は千両はかりあり | ||
+ | けるとそかたりつたへたるかかれは佐渡国には金ありけるよしと | ||
+ | 能登国のものともかたりけるとそ/62オy127 | ||
- | かかれば、佐渡国には、金ありけるよしと、能登国のものども、かたりけるとぞ。 |
text/yomeiuji/uji054.txt · 最終更新: 2018/03/08 21:23 by Satoshi Nakagawa