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text:yomeiuji:uji046 [2014/04/08 20:11] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji046 [2018/03/26 15:20] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第46話(巻3・第14話) 伏見修理大夫俊綱の事 ====== ====== 第46話(巻3・第14話) 伏見修理大夫俊綱の事 ======
  
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 **伏見修理大夫俊綱の事** **伏見修理大夫俊綱の事**
  
-是も今はむかし、伏見修理大夫は宇治殿の御子にておはす。あまり公達おほくおはしければ、やうをかへて、橘俊遠といふ人の子になし申て、蔵人になして、十五にて尾張守になし給てけり。+===== 校訂本文 =====
  
-尾張くだり、国こなひけるに、その比熱田神いちくおはしまして、をのづ笠をもぬがず、馬のはなをむけ、無礼をたすもを、やがてたち所罰せさ((底本ま))せおはければ大宮司の威勢国司もまさり、国の者共おぢおそれたりけり。+も今は昔伏見修理大夫((藤原俊綱・橘俊綱))は宇治殿((藤原頼通))の御子にておはす。あまり公達多くおはしければやうをかへて橘俊遠とふ人蔵人になして十五にて尾張守になし給ひてけり。
  
-それに、このの司くだりて、国のたどもあるに、大宮司われはと思てたるを、国司とがめて、「いかに大宮司ならんからに、国にはらまれては見参にもまいらぬぞ」とふに、「さきざきさるなし」とてたりければ、国司むつかりて「国司も国司にこそよれ。ひては、かうはふぞ」とていやみ思て、「らん所ども点ぜよ」などふ時に、人ありて大宮司にふ。「まことにもこくしと申すに、かかる人おはす。見参にまいらせ給へ」とひければ、「さらば」とひて、衣冠にきぬいだして、とものども丗人かりして国司のりむかひぬ+それに、尾張に下りて、国行ひけるに、そのろ、熱田神、いちはやくおはしまして、おづから、笠をも脱がず、馬鼻を向け、無礼をいたすものを、やがてたちどころに罰せさせ((「罸せさせ」は底本「罸せませ」。諸本により訂正。))おはしましければ、大宮の威勢、国司にも勝りて、国の者ども、怖ぢ恐れりけり。 
 + 
 +それに、この国の司下りて、国の沙汰どもあるに、大宮司、「われはと思たるを、国司とがめて、「いかに大宮司ならんからに、国にはらまれては見参にもらぬぞ」とふに、「前々(さきざき)さることなし」とてたりければ、国司むつかりて「国司も国司にこそよれ。われひては、かうはふぞ」とていやみ思て、「らん所ども点ぜよ」などふ時に、人ありて大宮司にふ。「まことにも、国司と申すに、かかる人おはす。見参にらせ給へ」とひければ、「さらば」とひて、衣冠に衣(きぬ)出だして、供の者ども三十人ばかり具して、国司のがり向ひぬ。 
 + 
 +国司、出会ひ、対面して、人どもを呼びて、「きやつ、たしかに召しこめて、勘当せよ。神官とはんからに、国中にはらまれて、いかに奇怪をばいたす」とて、召し立てて、結ふほどに、こめて勘当す。 
 + 
 +その時、大宮司、「心憂きことに候ふ。御神はおはしまさぬか。下臈の無礼をいたすに、たちどころに罰せさせおはますに、大宮司をかくせさせ御覧ずるは」と泣く泣くくどきて、まどろみたる夢に、熱田の仰せらるるやう、「このこにおきては、われ、力及ばぬなり。そのゆゑは、僧ありき。法華経を千部読みて、われに法楽せんとせしに、百余部は読み奉りたりき。国のものども、貴がりて、この僧に帰依しあひたりしを、なんぢ、むつかしがりて、その僧を追ひ払ひてき。それに、この僧、悪心をおこして『われ、この国の守となりて、この答をせん』とて生まれ来て、今、国司になりてければ、われ、力及ばず。その先生の僧を俊綱といひしに、この国司も俊綱といふなり」と、夢におほせありけり。 
 + 
 +人の悪心はよしなき事なりと。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  是も今はむかし伏見修理大夫は宇治殿の御子にておはすあまり 
 +  公達おほくおはしけれはやうをかへて橘俊遠といふ人の子になし/51オy105 
 + 
 +  申て蔵人になして十五にて尾張守になし給てけりそれに 
 +  尾張にくたりて国おこなひけるにその比熱田神いちはやく 
 +  おはしましてをのつから笠をもぬかす馬のはなをむけ無礼 
 +  をいたすものをやかてたち所に罰せませおはしましけれは大 
 +  宮司の威勢国司にもまさりて国の者共おちおそれたりけり 
 +  それにこの国の司くたりて国のさたともあるに大宮司われはと思てゐ 
 +  たるを国司とかめていかに大宮司ならんからに国にはらまれては 
 +  見参にもまいらぬそといふにさきさきさる事なしとてゐたりけれ 
 +  は国司むつかりて国司も国司にこそよれ我にあひてはかうはいふ 
 +  そとていやみ思てしらん所とも点せよなといふ時に人ありて大 
 +  宮司にいふまことにも国司と申すにかかる人おはす見参にまいらせ給 
 +  へといひけれはさらはといひて衣冠にきぬいたしてともの物とも丗 
 +  かりして国司のりむかひぬ国司出あひ対面して人とも/51ウy106 
 + 
 +  をよひてきやつたしかにめしこめて勘当せよ神官といはんからに 
 +  国中にはらまれていかに奇怪をはいたすとてめしたててゆふ程にこ 
 +  めて勘当すその時大宮司心うき事に候御神はおはしまさぬか下 
 +  臈の無礼をいたすたに立所に罰せさせおはしますに大宮司を 
 +  かくせさせて御らんするはとなくなくくときてまとろみたる夢に 
 +  あつたの仰らるるやう此事にをきては我ちから及はぬ也その故は 
 +  僧ありき法花経を千部よみて我に法楽せんとせしに百餘 
 +  部はよみたてまつりたりき国のものともたうとかりてこの僧に 
 +  帰依しあひたりしを汝むつかしかりてその僧を追はらひてき 
 +  それにこの僧悪心をおこして我この国の守となりてこの答を 
 +  せんとてむまれきて今国司になりてけれは我力をよはすその 
 +  先生の僧を俊綱といひしにこの国司も俊綱といふなりと 
 +  夢におほせありけり人の悪心はよしなき事なりと/52オy107
  
-国司出あひ、対面して、人どもをよびて、「きやつ、たしかにめしこめて勘当せよ。神官といはんからに、国中にはらまれて、いかに奇怪をばいたす」とて、めしたててゆふ程に、こめて勘当す。その時大宮司「心うき事に候。御神はおはしまさぬか。下臈の無礼をいたすだに、立所に罰せさせおはしますに、大宮司をかくせさせて御らんずるは」となくなくくどきて、まどろみたる夢に、あつたの仰らるるやう「此事にをきては、我ちから及ばぬ也。その故は、僧ありき。法花経を千部よみよみて、我に法楽せんとせしに、百餘部はよみたてまつりたりき。国のものども、たうとがりて、この僧に、帰依しあひたりしを、汝むつかりてその僧を追はらひてき。それにこの僧、悪心をおこして、我、この国の守となりて、この答をせん」とて、むまれきて、今、国司になりてければ、我力をよばず。その先生の僧を俊綱といひしに、この国司も俊綱といふなり」と、夢におほせありけり。 
- 人の悪心はよしなき事なりと。 
text/yomeiuji/uji046.1396955462.txt.gz · 最終更新: 2014/04/08 20:11 by Satoshi Nakagawa