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text:yomeiuji:uji036 [2015/02/03 13:47] – [第36話(巻3・第4話) 山伏舟を祈返へす事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji036 [2017/12/21 00:04] (現在) – [第36話(巻3・第4話) 山伏舟を祈返へす事] Satoshi Nakagawa
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 **山伏舟を祈返へす事** **山伏舟を祈返へす事**
  
-これも今は昔、越前国かぶらきのわたりといふ所に、わたりせむとて、物どもあつまりたるに、山伏あり。けいたう房といふ僧なりけり。熊野みたけは云に及ばず、白山、伯耆大山、出雲のわにぶち、大かた修行し残したる所なかりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-このかぶらきの渡に行て、わたらむするに、渡せ雲霞のごとし。をのをの物をとてわたすこのけいたう房、「わたせ」といふに、わたし守ききもいれでこぎ。そ時にこの山臥「いにかくは無下にはあぞ」といへども、大た耳にもききいれずしてこぎ出す+も今は昔、越前国、かぶらきの渡(わたり)いふ所に、む」て、者ども集まりた山伏あり。けいたう房といふ僧なりけり。熊野・御嶽はいふに及ばず白山・伯耆の大山、出鰐淵おほた修行し残した所なりけり
  
-けいたう房歯をくひあわせて、念珠をもみちぎ。此わたし守みかへて「をこの事」思たけしきにて三四町ばかりゆくけいたう房みやりて足をすなごぎのなから斗ふみ入て目もあらみなしてずずをだけぬともみちぎりて「め返せめし返せ」とさけぶ+それにこのかぶらきの渡に行きて、渡らむとすせん雲霞のごとし。おのおの物とりて渡す。このけいたう房、「渡せ」と言ふ、渡し守、聞きも入れで、漕出づ。そ時にこの山伏、「いかに、は無下にはあるぞ」言へども、おほかた耳にも聞き入れず漕ぎ出だす
  
-猶行過る時に、けいたう房、袈裟と念珠ととりて汀ちかくあゆみよりて、「護法取返せかへさずはながく三宝に別たまつらん」とさけびて、この袈裟を、になんとす。そをみて、此つどひゐたる物ども、色をうしひてたてり。+その時に、けいたう房、食ひはせて、念珠をもみちぎるこの渡見返り「をこのこと」と思ひたる気色にて、三・四町ばかり行くを、けいたう房、見やりて、足を砂子(すなご)、脛(はぎ)のからばかり踏み入れて、赤くにらみ、数珠(ずず)を砕けぬともみちぎて、「召し返せ、召し返せ」と叫ぶ
  
-かくいふ、風もふかぬに、この川舟のこなたへよりく。それを見て、けいたう房、「よるめるは、よるめるは。はやう出おはせ出おはせ」と、すはなちて、る者色をたかへたり。+行き過ぐる時に、けいたう房、袈裟と念珠とを取り合せて汀近く歩み寄りて、「護法、召し返せ召し返さずは、ながく三宝に別れ奉らん」と叫びてこの袈裟を海に投げ入れんと。それて、この集ひ居たる者ども、色を失なひて立てり。
  
-かくに、一町内によりきたり。その時、けいたう房「さてうちかへせ、うちかへせ」とさけぶその時につどひてみる物ども、一こゑに、「むさうの申やうかな。ゆゆしき罪に候。さて、おはしませ、おはしませ」といふ時けいたう房、今けしきかはり「はや打返給へ」とさけぶ時にこの渡舟に廿余人のわたものづぶとなげ返しぬ+かくほどに、風も吹かぬに、こ川舟のこなへ寄来(く)。それを見て、けいたう房寄るめるは寄るめるは。やう出でおはせ、出でおはせ」と、すはなちをして、色をたがへたり。
  
-その時けいたう房、ををしひて「あないたのやつ原や。まらぬか」といて、立帰り。+かくいふほどに、一町が内に寄り来たり。その時けいたう房「さて今はうち返、うち返せ」と叫ぶ。そ時に集ひて見る者ども一声(こゑ)に、「無慙(むざう)申しうかなゆゆしき罪に候ふ。さて、おはしせ、おはませ」といふ時、けいたう房、今少し気色変りて、「はやうち返し給へ」と叫ぶ時、この渡し舟に二十余人の渡る者、づぶと投げ返しぬ
  
-世のすゑなれども、三宝おはしましけりとなむ。+その時、けいたう房、汗を押しのごひて、「あな、いたのやつばらや。まだ知らぬか」と言ひて、立ち帰りにけり。 
 + 
 +世のなれども、三宝おはしましけりとなむ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今は昔越前国かふらきのわたりといふ所にわたりせむとて物 
 +  ともあつまりたるに山伏ありけいたう房といふ僧なりけり熊野み 
 +  たけは云に及はす白山伯耆の大山出雲のわにふち大かた修行し残したる所/44オy91 
 + 
 +  なかりけりそれにこのかふらきの渡に行てわたらむとするに渡せんとする物 
 +  雲霞のことしをのをの物をとりてわたすこのけいたう房わたせといふに 
 +  わたし守ききもいれてこき出その時にこの山臥いかにかくは無下にはあるそ 
 +  といへとも大かた耳にもききいれすしてこき出す其時にけいたう房歯を 
 +  くひあはせて念珠をもみちきる此わたし守みかへりてをこの事と思たるけし 
 +  きにて三四町はかりゆくをけいたう房みやりて足をすなこにはきのなから 
 +  斗ふみ入て目もあかくにらみなしてすすをくたけぬともみちきりてめし 
 +  返せめし返せとさけふ猶行過る時にけいたう房袈裟と念珠とをとり合て 
 +  汀ちかくあゆみよりて護法取返せめしかへさすはなかく三宝に別たてまつ 
 +  らんとさけひてこの袈裟を海になけ入んとすそれをみて此つとひゐ 
 +  たる物とも色をうしなひてたてりかくいふほとに風もふかぬにこの川舟の 
 +  こなたへよりくそれをみてけいたう房よるめるはよるめるははやう出おはせ出おはせとす 
 +  はなちをしてみる者色をたかへたりかくいふ程に一町か内によりきたり 
 +  その時けいたう房さて今はうちかへせうちかへせとさけふその時につとひてみる/44ウy92 
 + 
 +  物とも一こゑにむさうの申やうかなゆゆしき罪に候さておはしませおはしませといふ 
 +  時けいたう房今すこしけしきかはりてはや打返し給へとさけふ時に 
 +  此渡舟に廿余人のわたるものつふりとなけ返しぬその時けいたう房あ 
 +  せををしのこひてあないたのやつ原やまたしらぬかといひて立帰 
 +  にけり世のすゑなれとも三宝おはしましけりとなむ/45オy93
  
text/yomeiuji/uji036.1422938837.txt.gz · 最終更新: 2015/02/03 13:47 by Satoshi Nakagawa