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text:yomeiuji:uji029 [2014/09/27 18:10] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji029 [2015/01/31 14:32] – [第29話(巻2・第11話)明衡、殃に逢はんと欲する事] Satoshi Nakagawa
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 家あるじの男「我妻のみそかおとこする」とききて「そのみそか男、こよひなん逢んとかまふる」と、つぐる人ありければ「こんをかまへて殺さん」と思て、妻には「遠く物へ行て今四五日帰まじき」といひて、そらいきをしてうかがふ。 家あるじの男「我妻のみそかおとこする」とききて「そのみそか男、こよひなん逢んとかまふる」と、つぐる人ありければ「こんをかまへて殺さん」と思て、妻には「遠く物へ行て今四五日帰まじき」といひて、そらいきをしてうかがふ。
  
-よるにてぞありける。家あるじの男、夜ふけて立きくに、男女の忍て物いふけしきしけり。「さればよ、かくし男きにけり」と思て、みそかに入て、うかがひみるに、我寝所に男、女と臥したり。くらければ、たしかにけしきみえず。男のいびきするかたへやはらのぼりて、刀をさかてにぬきもちて、脇の上とぼしきほどをさぐりて、「つかん」と思てかいなを持あげてつきたてんとする程に、月影の板間よりもりたりけるに指貫のくくりながやかにて、ふとみえければ、それにきと思やう「我妻のもとには、かやうに指貫きたる人はよもこじ物を。もし、人たがへしたらんは、いとおしく不便なるべき事」を思て、手をひき返してきたるきぬなどをさぐりける程に、女房ふとおどろきて、「ここに人のをとするは、たそ」と忍やかにいふけはひ、我妻にはあらざりければ、「さればよ」と思て、ゐのきける程に、この臥たる男もおどろきて「たそたそ」とふこゑをききて、我妻の下なる所にふして、「我男のけしきのあやしかりつるは。それがみそかにきて、人たがへなどするにや。」とおぼえける程に、おどろきさはぎて「あれはたそ。盗人か」など、ののしりる声の、我妻にてありければ「こと人人のふしたるにこそ」と思て、走出て、妻がもとにいきて髪をとりて引ふせて「いかなる事ぞ」と問ければ、妻「さればよ」と思て、「かしこう、いみじきあやまちすらんに。かしこには上臈の今夜斗とてからせ給ひつれば、かしたてまつりて、我はここにこそふしたれ。希有のわざする男かな」と、ののしる時にぞ、明衡もおどろきて「いかなる事ぞ」と問ければ、其時に男、出きていふやう、「をのれは甲斐殿の雑色なにがしと申物にて候。一家の君、おはしけるをしりたてまつらで、ほとほとあやまちをなむつかまつるべく候つるに、けうに御指貫のくくりを見付けて、しかじか思給ひてなん、かいなを引しじめて候つる」と云ていみじう侘ける。+にてぞありける。家あるじの男、夜ふけて立きくに、男女の忍て物いふけしきしけり。「さればよ、かくし男きにけり」と思て、みそかに入て、うかがひみるに、我寝所に男、女と臥したり。くらければ、たしかにけしきみえず。男のいびきするかたへやはらのぼりて、刀をさかてにぬきもちて、脇の上とぼしきほどをさぐりて、「つかん」と思てかいなを持あげてつきたてんとする程に、月影の板間よりもりたりけるに指貫のくくりながやかにて、ふとみえければ、それにきと思やう「我妻のもとには、かやうに指貫きたる人はよもこじ物を。もし、人たがへしたらんは、いとおしく不便なるべき事」を思て、手をひき返してきたるきぬなどをさぐりける程に、女房ふとおどろきて、「ここに人のをとするは、たそ」と忍やかにいふけはひ、我妻にはあらざりければ、「さればよ」と思て、ゐのきける程に、この臥たる男もおどろきて「たそたそ」と、とふこゑをききて、我妻の下なる所にふして、「我男のけしきのあやしかりつるは。それがみそかにきて、人たがへなどするにや。」とおぼえける程に、おどろきさはぎて「あれはたそ。盗人か」など、ののしりる声の、我妻にてありければ「こと人人のふしたるにこそ」と思て、走出て、妻がもとにいきて髪をとりて引ふせて「いかなる事ぞ」と問ければ、妻「さればよ」と思て、「かしこう、いみじきあやまちすらんに。かしこには上臈の今夜斗とてからせ給ひつれば、かしたてまつりて、我はここにこそふしたれ。希有のわざする男かな」と、ののしる時にぞ、明衡もおどろきて「いかなる事ぞ」と問ければ、其時に男、出きていふやう、「をのれは甲斐殿の雑色なにがしと申物にて候。一家の君、おはしけるをしりたてまつらで、ほとほとあやまちをなむつかまつるべく候つるに、けうに御指貫のくくりを見付けて、しかじか思給ひてなん、かいなを引しじめて候つる」と云ていみじう侘ける。
  
 甲斐殿と云人は、この明衡の妹の男なりけり。思がけぬさしぬきのくくりの徳に、けうの命をこそいきたりければ、かかれば「人は忍」といひながら、あやしの所には立ちよるまじきなり。 甲斐殿と云人は、この明衡の妹の男なりけり。思がけぬさしぬきのくくりの徳に、けうの命をこそいきたりければ、かかれば「人は忍」といひながら、あやしの所には立ちよるまじきなり。
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text/yomeiuji/uji029.txt · 最終更新: 2017/12/21 00:01 by Satoshi Nakagawa