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text:yomeiuji:uji021 [2014/04/07 22:27] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji021 [2017/12/20 23:57] (現在) – [第21話(巻2・第3話)同僧正、大嶽の岩を祈り失ふ事] Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第21話(巻2・第3話)同僧正、大嶽の岩を祈り失ふ事 ====== ====== 第21話(巻2・第3話)同僧正、大嶽の岩を祈り失ふ事 ======
  
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 **同僧正、大嶽ノ岩を祈り失ふ事** **同僧正、大嶽ノ岩を祈り失ふ事**
  
-今は昔、静観僧正は、西塔の千手院といふ所に住給へり。その所は南むきにて大嶽をまもる所にて有けり。大たりの乾の方のそひに、大成いはほあり。其岩のあり様、龍の口をあきたるに似たりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-其岩すぢに向て住ける僧ども命もろくしおほく死けり。しばらくはいかにして死ぬやらんと心もえざける程、「此岩有ゆへぞ」といり。を毒龍巌とぞ名付けたける。是によりて西塔有様だあれあれ而已まさりけり。+今は昔、静観僧正((増命))は、西塔((比叡山西塔))千手院といふ所住み給へり。その所は南きにて、大嶽を守る所にありけり。大嶽((大嶽は底本「大た」。諸本より訂正))乾の方のそひに、大きなる巌(いはほ)あり。その岩のさま口を開(あ)き似たりけり。
  
-千手院にも人おほく死ければ、住わづらひけり。巌をるにの大口をきたるに似たり。「人のは、げにもさありけり」と僧正思給て、岩に向ひて、七日七夜持し給ければ、七日といふ夜半に空くもり震動する事をびただし。大嶽に黒雲かかりてえず。しばらくて空晴ぬ。夜明て大嶽をれば、毒巌くだけて散失にけり+その岩の筋に向ひて住みける僧ども、命もろくして、多く死にけり。しばらくは、「いかにして死ぬやらん」と心も得ざりけるほどに、「この岩のあるゆゑぞ」と言ひ立ちにけり。この岩を「毒竜の巌」とぞ名付けたりける。これによりて、西塔の有様、ただ荒れに荒れのみまさりけり。この千手院にも、多く死ければ、住わづらひけり。 
 + 
 +この巌をるに、まことの大口をきたるに似たり。「人のことは、げにもさありけり」と僧正て、このの方に向ひて、七日七夜、加持し給ければ、七日といふ夜半ばかり震動することおびただし。大嶽に黒雲かかりてえず。しばらくあり空晴ぬ。夜明て大嶽をれば、毒竜の、砕けて散り失せにけり。 
 + 
 +それより後、西塔に人住みけれども、祟りなかりけり。西塔の僧どもは、件(くだん)の座主をぞ、今にいたるまで貴み拝みけるとぞ、語り伝へたる。不思議のことなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔静観僧正は西塔の千手院といふ所に住給へりその所は南 
 +  むきにて大嶽をまもる所にて有けり大たりの乾の方のそひに大成 
 +  いはほあり其岩のあり様龍の口をあきたるに似たりけり其岩/25ウy54 
 + 
 +  のすちに向て住ける僧とも命もろくしておほく死けりしはらくは 
 +  いかにして死ぬやらんと心もえさりける程に此岩の有ゆへそといひ立に 
 +  けり此岩を毒龍の巌とそ名付たりける是によりて西塔の 
 +  有様たたあれにあれ而已まさりけり此千手院にも人おほく死け 
 +  れは住わつらひけり此巌をみるに誠に龍の大口をあきたるに似 
 +  たり人のいふ事はけにもさありけりと僧正思給て此岩の方に向て 
 +  七日七夜か持し給けれは七日といふ夜半斗に空くもり震動する事 
 +  をひたたし大嶽に黒雲かかりてみえすしはらく有て空晴ぬ夜明て 
 +  大たけをみれは毒龍巌くたけて散失にけりそれより後 
 +  西塔に人住けれともたたりなかりけり西塔の僧ともは件の座主をそ 
 +  今到迄たうとみおかみけるとそ語伝たる不思議の事也/26オy55
  
-それより後、西塔に人住けれども、たたりなかりけり。西塔の僧どもは、件の座主をぞ今到迄たうとみおがみけるとぞ、語伝たる不思議の事也。 
text/yomeiuji/uji021.1396877223.txt.gz · 最終更新: 2014/04/07 22:27 by Satoshi Nakagawa