text:yomeiuji:uji021
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text:yomeiuji:uji021 [2017/11/03 11:51] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji021 [2017/12/20 23:57] (現在) – [第21話(巻2・第3話)同僧正、大嶽の岩を祈り失ふ事] Satoshi Nakagawa | ||
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**同僧正、大嶽ノ岩を祈り失ふ事** | **同僧正、大嶽ノ岩を祈り失ふ事** | ||
- | 今は昔、静観僧正((増命))は、西塔((比叡山西塔))の千手院といふ所に住み給へり。その所は南向きにて、大嶽を守る所にてありけり。大嶽((「大嶽」は底本「大たり」。諸本により訂正))の乾の方のそひに、大きなる岩(いはほ)あり。その岩のありさま、竜の口を開(あ)きたるに似たりけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
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+ | 今は昔、静観僧正((増命))は、西塔((比叡山西塔))の千手院といふ所に住み給へり。その所は南向きにて、大嶽を守る所にてありけり。大嶽((「大嶽」は底本「大たり」。諸本により訂正))の乾の方のそひに、大きなる巌(いはほ)あり。その岩のありさま、竜の口を開(あ)きたるに似たりけり。 | ||
その岩の筋に向ひて住みける僧ども、命もろくして、多く死にけり。しばらくは、「いかにして死ぬやらん」と心も得ざりけるほどに、「この岩のあるゆゑぞ」と言ひ立ちにけり。この岩を「毒竜の巌」とぞ名付けたりける。これによりて、西塔の有様、ただ荒れに荒れのみまさりけり。この千手院にも、人、多く死にければ、住みわづらひけり。 | その岩の筋に向ひて住みける僧ども、命もろくして、多く死にけり。しばらくは、「いかにして死ぬやらん」と心も得ざりけるほどに、「この岩のあるゆゑぞ」と言ひ立ちにけり。この岩を「毒竜の巌」とぞ名付けたりける。これによりて、西塔の有様、ただ荒れに荒れのみまさりけり。この千手院にも、人、多く死にければ、住みわづらひけり。 | ||
- | この岩を見るに、まことに竜の大口を開きたるに似たり。「人の言ふことは、げにもさありけり」と、僧正、思ひ給ひて、この岩に向ひて、七日七夜、加持し給ひければ、七日といふ夜半ばかりに、空曇り、震動することおびただし。大嶽に黒雲かかりて見えず。しばらくありて、空晴ぬ。夜明て、大嶽を見れば、毒竜の巌、砕けて散り失せにけり。 | + | この巌を見るに、まことに竜の大口を開きたるに似たり。「人の言ふことは、げにもさありけり」と、僧正、思ひ給ひて、この岩の方に向ひて、七日七夜、加持し給ひければ、七日といふ夜半ばかりに、空曇り、震動することおびただし。大嶽に黒雲かかりて見えず。しばらくありて、空晴ぬ。夜明て、大嶽を見れば、毒竜の巌、砕けて散り失せにけり。 |
それより後、西塔に人住みけれども、祟りなかりけり。西塔の僧どもは、件(くだん)の座主をぞ、今にいたるまで貴み拝みけるとぞ、語り伝へたる。不思議のことなり。 | それより後、西塔に人住みけれども、祟りなかりけり。西塔の僧どもは、件(くだん)の座主をぞ、今にいたるまで貴み拝みけるとぞ、語り伝へたる。不思議のことなり。 | ||
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有様たたあれにあれ而已まさりけり此千手院にも人おほく死け | 有様たたあれにあれ而已まさりけり此千手院にも人おほく死け | ||
れは住わつらひけり此巌をみるに誠に龍の大口をあきたるに似 | れは住わつらひけり此巌をみるに誠に龍の大口をあきたるに似 | ||
- | たり人のいふ事はけにもさありけりと僧正思給て此岩に向て | + | たり人のいふ事はけにもさありけりと僧正思給て此岩の方に向て |
七日七夜か持し給けれは七日といふ夜半斗に空くもり震動する事 | 七日七夜か持し給けれは七日といふ夜半斗に空くもり震動する事 | ||
をひたたし大嶽に黒雲かかりてみえすしはらく有て空晴ぬ夜明て | をひたたし大嶽に黒雲かかりてみえすしはらく有て空晴ぬ夜明て |
text/yomeiuji/uji021.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:57 by Satoshi Nakagawa