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text:yomeiuji:uji020 [2014/04/07 22:23] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji020 [2018/03/18 19:15] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第20話(巻2・第2話)静観僧正、祈雨法験の事 ====== ====== 第20話(巻2・第2話)静観僧正、祈雨法験の事 ======
  
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 **静観僧正、祈雨法験の事** **静観僧正、祈雨法験の事**
  
-今は昔、延喜の御時、旱魃したりけり。六十人の貴僧を召て、大般若経よましめ給けるに、僧ども黒烟を立て「しるしあらはさん」と、祈けれ共、いたくのみ晴まさりて、日つよくてりければ、御門を初て大臣、公卿、百姓、人民、この事より外の歎なかりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-蔵人頭を召よせて静観僧正に仰下さるるやう「ことさら思食さるるやうあり。如是方々に祈どもさせるしるしなし。座をたちて別に壁本にたちていおぼしめすやうあればとりわき仰付るなり」と仰せ下けれ、静観僧正、其時は律師にて、上に僧都・僧正・上臈どもおはけれども、面目かぎなくて、南殿の御階よりくだりて、へいの本に北向に立て、香烟とりくびりて、額に香烟をあてて祈誓し給こと、見るひとさへくるしく思けり。+今は昔延喜の時((醍醐天皇御代))旱魃(かんつ)りけり。
  
-日のしばしもえさしでぬに、涙をながし、黒煙をてて、きせいし給ければ、香空へあがりて、扇ばかりの黒雲になる。上達部は南殿にならび居、殿上人は宜陽殿に立てるに、上達部の御前は美福門よりのぞく。かくのごとく見雲むらなく大空にひきふたぎて、竜神震動し、電光大千世界にち、車軸のごとくなる雨りて、天下にうるほひ、五穀豊饒にして万木果をむすぶ。見聞の人帰服せずといふなし。+六十人の貴僧を召して、大般若経読ましめ給ひけるに、僧ども黒煙(くろけぶり)を立てて、「験(しるし)あらはさん」と祈りけれども、いたくのみ晴れまさりて、強く照りければ、御門((醍醐天皇))をはじめて、大臣・公卿・百姓人民、こことよりほかの歎きなかりけれ。 
 + 
 +蔵人頭を召し寄せて、静観僧正((増命))に仰せ下さるるやう、「ことさら思し召さるるやうあり。かくのごとく、方々に御祈れども、させる験なし。座を立ちて、別に壁のもとに立ちて祈れ。思し召すやうあれば、とりわき仰せ付くるなり」と仰せ下しければ、静観僧正、その時は律師にて、上に僧都・僧正・上臈どもおはしけれども、面目かぎりなくて、南殿の御階(みはし)より下りて、屏(へい)のもとに北向きに立ちて、香炉とりくびりて、額に香煙を当てて、祈誓し給ふこと、見るひとさへ苦しく思ひけり。 
 + 
 +暑き日の、しばしもえさしでぬに、涙をし、黒煙をてて、祈請し給ければ、香煙、空へりて、扇ばかりの黒雲になる。上達部は南殿にび居、殿上人は宜陽殿に立るに、上達部の御前は美福門よりのぞく。 
 + 
 +かくのごとく見るほど、そのむらなく大空にひきふたぎて、竜神震動し、電光大千世界にち、車軸のごとくなる雨りて、天下、たちまちにうるほひ、五穀豊饒にして万木果をぶ。見聞の人帰服せずといふことなし。 
 + 
 +さて、御門・大臣・公卿等、随喜して僧都となし給へり。不思議のことなれば、末の世の物語、とかく記せるなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔延喜の御時旱魃したりけり六十人の貴僧を召て大般若 
 +  経よましめ給けるに僧とも黒烟を立てしるしあらはさんと祈けれ共 
 +  いたくのみ晴まさりて日つよくてりけれは御門を初て大臣公卿百 
 +  姓人民この事より外の歎なかりけれ蔵人頭を召よせて静観 
 +  僧正に仰下さるるやうことさら思食さるるやうあり如是方々に御 
 +  祈ともさせるしるしなし座をたちて別に壁の本にたちていのれ 
 +  おほしめすやうあれはとりわき仰付るなりと仰せ下けれは静観 
 +  僧正其時は律師にて上に僧都僧正上臈ともおはしけれとも面目かき/25オy53 
 + 
 +  りなくて南殿の御階よりくたりてへいの本に北向に立て香炉とり 
 +  くひりて額に香炉をあてて祈誓し給こと見るひとさへくるしく思けり 
 +  熱日のしはしもえさしいてぬに涙をなかし黒煙をたててきせいし給 
 +  けれは香呂の烟空へあかりて扇はかりの黒雲になる上達部は南殿 
 +  にならひ居殿上人は宜陽殿に立てみるに上達部の御前は美福門よりの 
 +  そくかくのことく見る程に其雲むらなく大空にひきふたきて竜 
 +  神震動し電光大千世界にみち車軸のことくなる雨ふりて天下忽 
 +  にうるほひ五穀豊饒にして万木果をむすふ見聞の人帰服せすと 
 +  いふ事なしさて御門大臣公卿等随喜して僧都となし給へり不思 
 +  議の事なれはすゑの世の物語とかくしるせるなり/25ウy54
  
-さて、御門・大臣・公卿・等、随喜して僧都となし給へり。不思議の事なれば、すゑの世の物語とかくしるせるなり。 
text/yomeiuji/uji020.1396877013.txt.gz · 最終更新: 2014/04/07 22:23 by Satoshi Nakagawa