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text:yomeiuji:uji016 [2014/04/07 20:55] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji016 [2019/12/04 11:28] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第16話(巻1・第16話)尼、地蔵見奉る事 ====== ====== 第16話(巻1・第16話)尼、地蔵見奉る事 ======
  
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 **尼、地蔵見奉る事** **尼、地蔵見奉る事**
  
-今は昔、丹後国に老尼ありけり。+===== 校訂本文 =====
  
-「地蔵菩薩は暁ごとにありき給」といふをほのかにきて、暁ごとに「地蔵見たてまつらん」とて、ひと世界をまどひありくに、博打のうちほうけてたるがて、「尼君は、さむきに、なにわざし給ぞ」とへば、「地蔵菩薩の暁にありき給なるにあひまひらせんとて、かくく也」とへば、「地蔵のあるかせ給ふ道は、こそりたれ。いざ給へ。はせまいらせん」とへば、「あはれ、うれしき事哉。地蔵のありかせ給はん所へ、ておはせよ」とへば、「に物をさせ給へ。やがててたてまつらん」とへば、「さは、いざ給へ」とて、隣なる所へく。+今は昔、丹後国に老尼ありけり。「地蔵菩薩は暁ごとに歩(あり)き給」といふことほのかにきて、暁ごとに「地蔵見らん」とて、ひと世界をまどひくに、博打(ばくち)うち呆(ほう)けてたるがて、「尼君はきに、なにわざし給ぞ」とへば、「地蔵菩薩の暁にき給なるに、会らせんとて、かく歩くなり」とへば、「地蔵のかせ給ふ道は、われこそりたれ。いざ給へ。はせらせん」とへば、「あはれ、しきことかな。地蔵のかせ給はん所へ、われ率(ゐ)ておはせよ」とへば、「われに物をさせ給へ。やがて奉らん」と言ひければ、「この着る衣、奉らん」とへば、「さは、いざ給へ」とて、隣なる所へく。
  
-尼よろこびて、いそぎ行に、そこの子に地蔵といふ童けるを、それがおやりたりけるによりて、「地蔵は」とひければ、おやあそびにぬ。いまきなん」とへば、「くは、ここなり。地蔵のおはします所は」とへば、尼うれしくてつむぎのきぬをぎてらすれば、ばくちいそりてぬ。+よろこびて、ぎ行に、そこの子に地蔵といふ童ありけるを、それがりたりけるによりて、「地蔵は」とひければ、びにぬ。今、来()なん」とへば、「くは、ここなり。地蔵のおはします所は」とへば、尼、嬉しくてつむぎの衣(きぬ)ぎてらすれば、博打て取りてぬ。
  
-尼は地蔵みまいらせんとてたれば、おやどもは心もず「など、『このわらはん』と思らん」と思に、十ばかりなる童のたるを「くは、地蔵よ」と、いへば、尼、るままに是非もらず、しまろびておおがみ入て、土にうつしたり。+尼は、「地蔵、見参らせんとてたれば、どもは心も「など、『このん』と思らん」と思ふほどに、十ばかりなる童のたるを「くは、地蔵よ」とへば、尼、るままに是非もらず、しまろびて、拝み入て、土にうつしたり。
  
-童、を持てあそびけるままに来りけるが、そのずはへして、手すさみのに額をけば、額よりかほうへまでけぬ。けたる中より、えもいはずめでたき地蔵の御顔え給。+童、楚(すえ)を持びけるままに来りけるが、そのして、手すさみのやうに額をけば、額よりまでけぬ。けたる中より、えもいはずめでたき地蔵の御顔、見え給
  
-尼、おがみ入て、うちみあげたれば、かくて立給へれば、涙をながして、おがみ入まいらせて、やがて極楽へ参にけり。+尼、み入て、うち見上げたれば、かくて立給へれば、涙をして、み入り参らせて、やがて極楽へ参にけり。 
 + 
 +されば、心にだにも深く念じつれば、仏も見え給ふなりけると信ずべし。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔丹後国に老尼ありけり地蔵菩薩は暁ことにありき給と 
 +  いふ事をほのかにききて暁ことに地蔵見たてまつらんとてひと世 
 +  界をまとひありくに博打のうちほうけてゐたるかみて尼君はさ 
 +  むきになにわさし給そといへは地蔵菩薩の暁にありき給なるに 
 +  あひまひらせんとてかくありく也といへは地蔵のありかせ給ふ 
 +  道は我こそしりたれいさ給へあはせまいらせんといへはあはれう 
 +  れしき事哉地蔵のありかせ給はん所へ我をいておはせよといへは 
 +  我に物をえさせ給へやかていてたてまつらんといひけれは此 
 +  きたる衣たてまつらんといへはさはいさ給へとて隣なる所へい 
 +  ていく尼悦ていそき行にそこの子に地蔵といふ童有ける 
 +  をそれかおやをしりたりけるによりて地蔵はととひけれは 
 +  おやあそひにいぬいまきなんといへはくはここなり地蔵の 
 +  おはします所はといへは尼うれしくてつむきのきぬをぬきてとら/17ウy38 
 + 
 +  すれははくちはいそきてとりていぬ尼は地蔵みまいらせんとて 
 +  ゐたれはおやともは心もえすなとこのわらはをみんと思らんと思程に 
 +  十はかりなる童のきたるをくは地蔵よといへは尼みるままに是非もしら 
 +  すふしまろひておかみ入て土にうつふしたり童すはへを持てあそひけるままに 
 +  来たりけるかそのすはへして手すさみの様に額をかけは額よりかほのうへ 
 +  まてさけぬさけたる中よりえもいはすめてたき地蔵の御顔みえ給 
 +  尼おかみ入てうちみあけたれはかくて立給へれは涙をなかしておかみ入ま 
 +  いらせてやかて極楽へ参にけりされは心にたにも深念しつれは仏もみえ 
 +  給なりけると信すへし/18オy39
  
-されば、心にだにも深念しつれば、仏もみえ給なりけると信ずべし。 
text/yomeiuji/uji016.1396871745.txt.gz · 最終更新: 2014/04/07 20:55 by Satoshi Nakagawa